経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。
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ボリス・ジョンソン英首相のとんでもない行状が続く。自分の思い通りのEU離脱実現に向けて、議会の早期閉会をゴリ押しした。審議時間の短縮を狙ったのである。にわか総選挙で、勢力挽回を図ろうともしている。
負けてはならじと、野党側がEU離脱延期法案を提出したところで、ジョンソン首相の無茶苦茶行動が極まった。野党法案への賛成に回った21人の与党保守党議員を、何と追放処分してしまったのである。この21人衆の中には、保守党の大重鎮たちが顔を揃えている。
筆者が最も仰天したのは、追放議員の中にケネス・クラーク元財務相の名前が含まれていたことだ。この人は、マーガレット・サッチャー政権時代から、その後を引き継いだジョン・メイジャー政権の期間にわたって、閣僚として手腕を振るった。善きリベラリストとして、野党側からも一目も二目も置かれていた。気さくな人柄もあって、迷走に向かう保守党の支持基盤を支える貴重な人気者役を果たしていたのである。
その意味で、クラーク氏は今日の保守党にとって大恩人の一人だ。その恩ある人を、自分のいうことを聞かないからというので、たちどころに追放する。これには全くもって唖然とした。
英国政治のこの有り様にあきれていたら、今度は日本でとんでもないことが起こった。安倍政権によるまたもやの内閣改造の一環として、萩生田光一氏が初入閣した。そのポストが、何と文部科学大臣である。
萩生田氏といえば、安倍首相の側近中の側近だ。しかも、かの加計学園による獣医学部新設問題で、大いに渦中の人となった人物である。この問題自体についても、萩生田氏がその中で演じたかもしれない役割についても、疑惑は残ったままである。このような人物を、こともあろうに、疑惑の主舞台となった文科省を所轄する大臣に任命するとは、何たることか。開いた口がふさがらない。そのまま、顎がはずれてしまいそうである。
一つの追放と一つの入閣。そこに共通するものは何か。そこにあるのは、憚りとか慎み、節度や良識という人間的感性と全く無縁のあつかましさだ。品位ゼロ。いずれ劣らず、許し難い。
※AERA 2019年9月23日号