小栗:むちゃくちゃ面白かったです。太宰は文学の人なのに、この映画では、文学の話はほとんど出てこない(笑)。でも、文学をしていないところが太宰である、みたいなところもあって、その矛盾が一番面白かったかな。ラストも、女性たちの清々しさが際立っていていいですよね。

 クランクインまでに、太宰のほとんどの作品は読んだのですが、途中から「嫌いだなー」と思いました(笑)。なんかもう、センチメンタルすぎて。学生時代に読んだときは、「僕のことを言っている」と思っていたけれど、いま読むと「いやいや、何を言っているんだ」と。太宰が書く喜劇は好きですけれどね。

 二人の会話は弾み、深い信頼関係があるように見える。

蜷川:私たち、それほど頻繁に会っていたわけではないよね。写真の撮影で会うくらいで、「いつか一緒に仕事をしよう」と話したこともなかった気がする。(故・蜷川幸雄さんの舞台に何作も出演していることもあり)どうしても、父親の影がちらついてしまうので「いつか何かをやるのだったら、しっかり向き合えるものがいい」とは思っていたけれど。

小栗:一度、同じ時期にハワイに行っていて、一緒に遊んだことがありましたね。

蜷川:あはは、あれは面白かった。長男がまだ小さい頃で、小栗君も結婚する前だったから、「ベビーカーを押してキャップをかぶったら『小栗旬だ!』と気づかれずに過ごせるよ」と言って、実際にベビーカーを押してもらい、買い物した荷物まで持ってもらって。

小栗:荷物持ちとして(笑)。

蜷川:写真の撮影は、“光輝く瞬間”をどう切り取るかが大きいから、お互いのよいところだけでも付き合えてしまう。だけど、映画は接する時間も長くて、今回のような重い物語では、お互い負の部分まで掘り下げないといけない。だから、小栗君に対する気持ちも以前とは変わった気がする。共に頑張った、共に闘った、という感じがすごくあるな。

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2019年9月16日号より抜粋