吉田・須走口山頂のご来光直後の光景。写真は昨年8月5日に撮影したものだが、例年、登山者で鈴なりになり、山頂はごった返す(写真:小岩井大輔さん提供)
吉田・須走口山頂のご来光直後の光景。写真は昨年8月5日に撮影したものだが、例年、登山者で鈴なりになり、山頂はごった返す(写真:小岩井大輔さん提供)
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 いまや海外からの登山者も急増する富士山で起きた痛ましい事故。その原因はともあれ、ご来光見たさに焦る気持ちが落石につながることもある。

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 恐れていた事故が、起きてしまった。関係者はそう口をそろえる。

 8月26日、東京都在住のロシア人女性(29)が富士山の山頂付近で落石にあい、亡くなった。落石が自然に起きたものなのか、人為的なものなのかはわかっていない。しかし、富士山の登山環境を鑑みると、いつ起きてもおかしくない事故だった。

 山梨県警によると事故が起きたのは朝5時ごろ。被害女性は日本人の夫とともに、前日25日の午後9時ごろに5合目の登山口を出発。夜通し登って山頂まであと200メートルほどのところで落石にあったという。

 富士山の山頂付近にはこの時間帯、山頂でご来光を見ようとする人の長い列ができる。女性のように前夜に登山口を発ち、徹夜で登る人もいるが、多くは途中の山小屋で仮眠してから出発する。女性が登っていた吉田ルートは富士山登山者の7割程度が集中する人気ルートで、本8合目で別のルートと合流してさらに混雑度が増す。このルートから登山する人は、多い日で1日5千人超。うち、山頂でのご来光をめざす人がどれだけいるか正確なデータはないが、山小屋の定員や予約状況から考えると3千人を超える日もあるとみられる。これだけの人数が鈴なりに連なり、狭い登山道を一歩一歩登っていく。渋滞で身動きが取れなくなることもある。事故があった日も、シーズンが終わりに近づくなかで数少ない晴天が見込める日とあって、休日並みの込み具合だった。

 そんな日には必ず起こる問題がある。長年、富士山専門誌の編集に携わる山岳ライターの佐々木亨さんはこう話す。

「山頂でご来光を見たいと焦る気持ちから登山道のロープをまたいでルートを外れ、上を目指そうとする人や、逆に休憩するために道を譲ろうとコースを外れる人が少なくありません」

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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