県や山小屋関係者の尽力もあり、富士山の登山ルート中には落石につながりそうな石は多くない。しかし、ルートを一歩外れると、もろい石や崩れやすい石がいたるところにある。シーズン中は要所に誘導員が配置されるが、ルート中すべてを監視するのは不可能。なかには誘導員の制止を振り切ろうとする人さえいる。大きな事故にはつながらなかったが、これまでもルートを外れた登山者が石を落とし、下から登ってくる登山者にぶつかったり、ぶつかりそうになる事例は散見された。

 山頂の山小屋で働きながら富士山の撮影を続けるフォトグラファーの小岩井大輔さんも同様の指摘をする。

「山頂でも、ロープをまたいで立ち入り禁止場所に入る人が後を絶ちません。シーズン中に注意しない日はないくらい。少しでもいい場所でご来光を見たいのはわかりますが、危険です」

 立ち入り禁止にしているのは、立ち入った人自身が危険な場合もあるが、落石を引き起こして下にいる登山者が被害を受ける恐れが大きいからだ。

「落石にまで頭が回っていない人が多い。でも、混雑する登山道上に石が落ちれば避けようがありません」(小岩井さん)

 富士山はもともと落石の多い山だ。1980年には死者12人を数える大規模な落石事故が起きている。7合目付近から転がり落ちた石が5合目の車を直撃し、車内にいた人が亡くなった例もある。それでも近年、重大事故が起きていなかったのは、危険な石を取り除いたり、落石避けの遮蔽物を設けたり、登山ルートを書き換えたりといった努力が続けられてきたからだ。

 今回の事故が、立ち入り禁止場所に立ち入ったことで引き起こされたのかはわからない。だが、身勝手な行動が無関係な誰かの命を奪うことにもつながりかねない。山に登る以上、そのことは肝に銘じておきたい。(編集部・川口穣)

AERA 2019年9月9日号

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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