第161回芥川賞・直木賞贈呈式が23日、都内で行われた。「むらさきのスカートの女」(小説トリッパー春号)で芥川賞を受賞した今村夏子さんと、『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』(文藝春秋)で直木賞を受賞した大島真寿美さんらがつづった受賞のことばを掲載する。
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■今村夏子さん/「むらさきのスカートの女」(小説トリッパー春号)
小説を書き始めてから九年が経ちました。この九年の間に、あきらめる機会は何度もあったのに、未だにあきらめていないことが、自分でも不思議でなりません。書いたぶんだけ幸福度が上がるということはなく、反対に、つらいことや悲しいことを引き寄せてしまっているように感じることが、時々あります。
「むらさきのスカートの女」を書いている最中、夫に「これで最後にする」と宣言しました。過去に何度か同じ宣言を聞かされている夫は、これまでと同様に「わかった」と頷いていました。
あれから半年が経ちますが、まだ、新しい小説を書きだすことができません。このままでは宣言した通りになりそうで、日々恐怖を感じているところです。
私にはまだ書きたいことがあります。今回の受賞で、小説への思いは一層強くなりました。
■大島真寿美さん/『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』(文藝春秋)
小説を書いている間の、喜びも苦しみも、まあだいたい、わかったつもりになっていました。楽しいこともあれば辛いこともある。そんなの当たり前。それでも一行一行書きつづけるだけ、そう思って、二十数年、やってきました。
ところがところが、この、『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』を書いている間、なんといったらいいか、そういう、自分の知っているレベルをはるかに突き抜けた喜び、楽しさが味わえたのです。むろん、苦しいときもあるにはありましたが、ともかく、ありえないくらいに書くことが楽しかった。
もう、ほんとにこれで充分だ、と思っていました。こんな幸せ、そうないよなー、と。これ以上、望むことはなにもない。
それなのに、思いがけず、この小説で直木賞をいただきました。
またべつの(味わったことのない)喜びに浸れるなんて……。
また一行一行、書きつづけていきます。
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