揺れを感じるとすぐに避難した。最初の避難場所は低地で津波が来るかもしれないと、もっと高い場所を目指し、助かった。日ごろから、津波を想定した避難訓練を繰り返し、地域の地形などを把握していたことが命を守ることにつながった。「いのちをつなぐ未来館」はW杯会場近くにあり、多くの人が訪れることが予想される。
「震災で起きたことを知ってもらうのはもちろんですが、震災が起こる前に取り組むことが大事だということも知ってもらえたらうれしいです」
スタジアムに1万3千人を超える観客が訪れた日、釜石高校3年の洞口留伊(るい)さん(17)は会場近くで来場した人に声を掛け、写真や動画を撮っていた。
「震災後に支援してくれた世界中の人たちに、元気になった釜石の姿を見せて感謝を伝えたいと思ったんです」
同じ思いを持った仲間と「釜石7.27高校生感謝プロジェクト」を立ち上げ、6月下旬から高校生のメッセージ動画を撮影し、インスタグラムやフェイスブックなどSNSで世界に向けて発信してきた。これまでに約200人が参加したという。また、スタジアムまでのアクセス方法を紹介する動画も撮影し、ユーチューブで紹介している。
震災当時は鵜住居小学校の3年生。算数の授業を受けていた。山へ逃げて命は助かったが、自宅は津波で流された。
「ランドセルも筆記用具も流されて何もなくなったときに、世界中からいろんな支援をしてもらって本当にありがたかった」
スタジアムが完成した昨年、こけら落としのイベントで、キックオフ宣言の大役を担った。「私は釜石が好きだ」で始まる印象的なスピーチでは、市のラグビー親善大使に応募して15年のW杯イングランド大会に観戦に行った際に知ったノーサイド精神に感銘を受けた話も盛り込み、最後は英語で、世界へ向けて感謝を伝えた。
釜石ではW杯の2試合が予定されていて、9月25日にフィジー対ウルグアイ戦、10月13日にナミビア対カナダ戦が行われる。(編集部・深澤友紀)
※AERA 2019年8月26日号より抜粋