

いつの時代も節目節目にその停滞した社会状況を切り開くキーマンが登場するように、音楽シーンにも次代の幕開けを告げる存在が現れる。
平成元年(1989年)に鳥取で生まれ、平成25年(2013年)から弾き語りで歌い始めた折坂悠太というシンガーソングライターは、昨年から今年にかけてじわじわとリスナーの裾野を広げ、存在感を高めてきた。
歌を作って歌う……という極めてオーソドックスなスタイルだが、自作自演という一言では収まりきらない器の大きな音楽家だ。宇多田ヒカルやくるりの岸田繁ら多くの先輩がお気入りのアーティストと公言したことで、さらに注目されている。
昨年10月に発表されたアルバム「平成」は、全国のCDショップ店員が投票で選ぶ「CDショップ大賞」の大賞にも選ばれた(大賞は2作品。もう1枚は星野源「POP VIRUS」)。
開襟シャツを着た本人のどこか古風な印象さえ与えるジャケット写真が印象的なこのアルバムは、その実、伝統音楽への真摯な姿勢とそこを再解釈しようとする先進性を併せ持つ、とても洗練されたポップ・ミュージック集だ。
折坂作品の魅力は、ジャズ、ブルーズ、フォークなど様々なルーツ音楽をミックスさせた曲に、語感の美しい日本語の歌詞を与え、ヨーデルのような節回しを取り入れたユニークな歌唱法で表現された点にある。
だが、ただいたずらにいろいろな音の要素を折衷するのではなく、すべてをあくまで大衆音楽の一つとして捉えているところに特徴がある。ジャズもブルースも今や独立したジャンルのようになっているが、そもそも人間の生活の営みの中から自然発生的に誕生した文化として、折坂は消化している。つまり、ジャズもブルーズもフォークも、ヒップホップでさえも民衆の生活の中で生まれ育った伝承音楽という解釈だ。
だから、折坂の歌は折坂のものであると同時に、それを聴く人みんなの音楽でもある。ジャズ風、ブルーズっぽさ……などという表面的な音の特徴ではなく、歌い継ぎ、演奏し続けてきた人たちが積み重ねてきた思いを彼もまた継承していくことで、歌は次の時代へとバトンパスされていく。