業界を是正しようと闘う人もいる。ハノイの送り出し機関「Lacoli(ラコリ)」は、国が定めた3600ドルを厳守する。率いるのは、別の送り出し機関で働いていた2人だ。社長のグエン・ソワン・フンさん(35)。そして、副社長の渡邊一也さん(46)。裏金が飛び交い、接待が横行する業界を見てきた2人の結論は、「正しいことをするには、自分たちがやるしかない」。
フンさんは10年から送り出し機関で働き、監理団体幹部にキックバックの現金を手渡した経験もある。渡邊さんは監理団体の職員としても働き、実習生の送り出しの現場が、中国からベトナムに移る様子を見てきた。
「豪華な食事をふるまい、女漬けにする。中国で行われていたことが、そのままベトナムで行われている。中国の経済成長や反日運動で実習生が減り、中国の送り出し機関がベトナムにお客とノウハウを持ち込んだのです」
送り出しビジネスの細部を知る2人でスタートしたが、皮肉にも規定通りに設定した手数料が壁になった。
「他社と比べれば半額以下になることも多い。実習生募集の説明会を開いても、『こんなに安いお金で日本に行けるはずがない』と疑われ、信用してもらえなかった」(フン社長)
それでも、信じて付いてきた実習生の口コミから、少しずつ人が集まるようになっている。渡邊さんは言う。
「送り出しの一番大きな負担は募集にかかる費用でしょう。実習生にいい環境を作れば、コストをかけなくても口コミで人が集まるようになります」
在ベトナム日本国大使館は17年から技能実習や留学の正しい情報を伝えるセミナーを開催している。昨年はベトナム全土の17カ所で実施した。梅田邦夫大使(65)は話す。
「日本を目指すベトナム人が増えると同時に、日本で失踪したり、犯罪をしたりするベトナム人も増えています。しかし、彼らは初めから犯罪をしようと日本にきたわけではなく、誤った情報に騙され、ブローカーなどに法外な借金を背負わされているのです」
(ジャーナリスト・澤田晃宏)
※AERA 2019年7月29日号より抜粋