今回の輸出規制強化は、1、2年のスパンで考えれば韓国にとって大きなダメージです。一方で反財閥を旗印にしていた文政権がおおっぴらに財閥へテコ入れができるようになるなど、結果として文政権の追い風となりかねません。そればかりか今後、韓国経済が少しでも落ち込んだ場合には、日本のせいにできるわけです。また、この問題が大きくなった場合、世界的なサプライチェーンに影響を与えていくことになるでしょう。

 日韓の二国間だけで見ているだけでは、関係悪化というトンネルの中からいつまでも出られません。日韓関係をブレークスルーするための梃子(てこ)になるのは、やはり北朝鮮の問題だと思います。

 今後、米朝交渉で何らかの妥結が図られた場合、南北関係は好転するでしょう。楽観的なシナリオかもしれませんが、金正恩(キムジョンウン)のソウル訪問が可能になるようなことがあれば、日朝の無条件の交渉を支持する文政権が日朝交渉の仲介をかって出る可能性が出てきます。それを材料に日韓の間で政治的な歩み寄りが図られるという可能性がありそうです。

AERA 2019年7月29日号

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姜尚中

姜尚中

姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍

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