技能実習生や留学生として急増しているベトナム人労働者たち。だが同じ街で暮らす私たちは、彼らのことをどれだけ知っているだろうか。彼らの故郷を訪ね、日本を目指した理由を探った。ジャーナリスト・澤田晃宏氏がリポートする。
【写真】車道沿いの壁に実習生募集の張り紙も…技能実習生の故郷はどんな所なのか
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日本では、ベトナム人技能実習生が働く一部の劣悪な現場や、多額の借金を背負わせる送り出しの仕組みに批判が集まっている。間近ではNHKが愛媛県の縫製工場で働くベトナム人技能実習生の姿を報じ、SNS上では今治タオルの不買運動に発展するなど話題になった。番組では、早朝から午後10時過ぎまで働き、二段ベッドが詰め込まれた窓のない部屋で寝泊まりするベトナム人技能実習生が映し出された。洗濯する間もなく、雨が続くと濡れたままの服を着て作業をしていた。
こうしたニュースは、本国でも話題になる。誰かしらがベトナム語に翻訳し、SNS上で拡散する。必ずしも日本が正しい国でないことは、ベトナム人も知っている。それでも彼らは厳しい合宿生活を耐え抜き、借金を背負ってまで日本を目指す。そこにどんな思いがあるのかを知りたくて、彼らが生まれ育った町を訪ねることにした。
技能実習生の故郷に向かうため、ハノイ市内のバスターミナルで6万ドン(約280円)を支払い、長距離バスのチケットを買った。交通量の少ない土曜日の朝だったが、目的地まで約4時間かかった。たどり着いたのは、ベトナム北東部に位置するバクザン省ルックナム郡。ほとんどの技能実習生はハノイなど都市部の出身者ではない。人口約20万のルックナム郡は、外国に出稼ぎに行く人が多い町だという。
放し飼いの牛が側道を歩く郡の中心部を抜けると、周囲は山と畑に囲まれる。ほかに移動手段はなく、ベトナム人通訳が運転するバイクの後部座席にまたがった。日が暮れると、ヘッドライトが照らす前方以外は、はっきりと見渡せない。それでも、池の周りで動く複数の人が見えた。あれは何かと尋ねると、ベトナム人通訳者は言った。
「カエルですよ。ゆでたり、焼いたりして、骨をしゃぶるようにして食べるんです。お酒のあてにいいんです」
これなのか──。筆者はかつてベトナム人技能実習生が入国前に学ぶ教科書にあった「日本での習慣の違い」の1項目を思い出していた。
「近くの沼などで魚や、カエルなどを捕まえて食べたりしない」
ベトナム人技能実習生の故郷に、ようやくたどり着いたようだ。