最初は「見るのもイヤ」と嫌われていたシマイシビル/(地独)大阪府立環境農林水産総合研究所提供
最初は「見るのもイヤ」と嫌われていたシマイシビル/(地独)大阪府立環境農林水産総合研究所提供
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鴨川デルタのどこにどんな生き物がいたかが一目で分かる
鴨川デルタのどこにどんな生き物がいたかが一目で分かる

 探究堂の年長児クラス(ぷれりかクラス)が取り組む『川の生き物』プロジェクトもいよいよ最終日を迎えます。

【捕まえた生き物たちが一目で分かる地図はこちら】

 この日はまず、『川の生き物』に対する理解をさらに深めるため、NHK for SchoolのWebサイトで動画を鑑賞することにしました。アメンボやトビケラの生態をコンパクトにまとめた動画をたまたま見つけたからです。

 小学校中学年を対象とした内容でしたが、何度も生き物探しを実施し、体験知を積み重ねた彼らにとってはさほど難しくないようでした。

「今改めて『川の生き物』という言葉を聞いたら、どんなことを頭に思い浮かべるかな?」

 プロジェクトのスタート時と同様の問いを子どもたちに投げかけます。テーマに対するイメージがどのように変化したのかを確認するためです。

「ハグロトンボの幼虫は(私たちが採集活動をした)全部の場所にいたよ。あと、アメンボも」

 いつも元気いっぱいの女の子が教室の壁に掲示された鴨川デルタの地図を指さしながら答えてくれました。

 そこにはみんなで捕まえた水生生物の写真が貼り付けられており、どこにどんな生き物がいたかが一目瞭然です。

「トビケラの幼虫って、なんであんなにうまく小石を集められるんやろ」

「そうそう。集めた小石で巣を作んねんな」

「糸を使っていて、なんか蜘蛛っぽいし」

 川底の石にヒゲナガカワトビケラの巣を見つけた実体験とふりかえりの直前に観た動画の内容がリンクし、ますます発想が豊かになっていきます。

「アメンボが水に浮く理由がわかって面白かった」

「脚の毛と油がポイントやんね!」

「けど、やっぱり身体が軽いのも大事やと思うわ。重すぎたら沈むんちゃう?」

 知ったことや体験したことを元に自分なりの仮説を立てる姿を見ると、彼らのこの数カ月間での成長を感じます。

 せっかくなので保護者の方にも聞いてみると、以下のような返答が返ってきました。

・賀茂川と高野川のそれぞれの採集場所はすぐ近くなのに、そこにいる生き物が結構違う

・陸にいる昆虫に比べて、川の生き物は動きが早くて捕まえにくい

・川の生き物は小さなものが多く、その中でナマズが飛び抜けて大きいことに改めて驚いた

・鯉は川の流れとは逆向きに泳いでいることが多い

 童心に戻って生き物探しに取り組んでみることで、大人にも新たな発見がたくさんあったようです。

 ふりかえりの後半はなぜかシマイシビルに関連する意見が集中することになりました。

「シマイシビルが伸び縮みするのはなぜか?」に始まり、「なぜいつも石にひっついてるのか?」「吸盤で石にひっついているのになぜ進めるのか?」などの疑問が挙がり、それに対していろんな予想が飛び交います。

 そのシルエットと動きから、生き物探しの最中は全く不人気だったシマイシビル。それが最後の最後でみんなの注目の的になるのは何とも不思議な気分です。

 みんなの意見が模造紙を埋めつくし、本来であればこれをもってプロジェクト終了となるところ、実は私たちに課せられた最終ミッションが存在することを子どもたちに伝えます。突然の発表にぷれりかキッズも驚きを隠せません。

『川の生き物』プロジェクトの最終ミッション、それは自作のセルビン(仕掛け)で魚を捕まえることです。

 前回の授業では明らかに時間不足のため失敗に終わった本ミッション。もう一度挑戦したいという思いから、授業前日にセルビンを川に設置しておいたのです。

「魚、(セルビンに)入ってるかなあ……」

 大人も子どもも期待と不安で胸がいっぱいのまま現地に向かいます。

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山田洋文

山田洋文

山田洋文(やまだ・ひろふみ)/1975年生まれ、京都府出身。教育家。神戸大学経済学部卒。独立系SIerのシステムエンジニアを経て、オルタナティブスクール教員に。2016年4月、京都市内でプロジェクト学習に特化した探究塾の探究堂(http://tanqdo.jp/)を開校。探究堂代表、認定NPO法人東京コミュニティスクール理事。

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