「昨年3月の認定時には、4技能について二つの試験の成績を足して提出すればいいものと認識していました」
ところがその後、他民間試験との公平性を保つために二つの試験の受験時期を近づけることや、AO入試や推薦入試などに合わせ三つの時期に区切った成績提出も要求され、現行のシステムでは対応しきれない問題が出てきた。L&Rは申込者が全員受けられるのに対し、コンピューターを使うS&Wは台数に限りがあるため申し込みは先着順。受験生が希望するタイミングで確実に受けられるという保証ができない。試験日も世界各国で調整し設定されるため、大学入試に合わせ融通を利かせることも難しい、といった問題も重なった。
「実際の入試でご迷惑をおかけする前に、と取り下げの決断に至りました」(山下常務理事)
やはり、そうか。東北地方の40代の英語教員は、今回のニュースを受けてそう感じた。
「現場の教師に民間試験の情報はほとんど下りてきていない。本当にできるのか疑問でした。見切り発車すぎるのです」
かねて、民間試験の利用について「事業者の利益相反」「受験機会の不平等」「適正な評価ができる状態にない」など問題が指摘されてきた。6月には中止を求める請願書を大学教授などが国会に提出。そのひとり、東京大学の阿部公彦教授は言う。
「TOEICは、文科省の行った高校生の受験意向調査でシェアが1.8%と低かった。採算が取れないと判断したのでは。今回の改革はひと言でいうと『入試の民営化』。そのリスクが露呈したということです。今後も撤退する事業者が出る可能性はあると思います」
シェア1.8%は小さな数字に見えるが、人数換算すると、約1万人の高校生がそこにいる。
柴山昌彦文科相は2日の会見でTOEICの判断を「やむを得ないもの」とし、「今後、受験生が不利益を被ることのないよう対応する」と語った。
先の女性教員は言う。
「私のいまの最大の仕事は、生徒たちの不安をいかに抑えるか。どうか安心して、気持ちよく受験できる態勢を整えてほしい」
(編集部・石田かおる)
※AERA 2019年7月15日号