近代的な小説の構造が生まれていない、江戸から近代への過渡期に生まれた明治娯楽物語は「物語が停滞するとぶん殴る」といった特徴があるとか。

「中にはもう少し頑張れば、娯楽読み物ではなく、ちゃんとした小説になったのに、と思う作品もあります」

 当時の娯楽読み物の人気はすさまじく、講談速記本に限っても、明治30年代における貸本屋でのシェアは7割を超えていた。講談師と速記者が物語を作り出すプロセスも興味深い。

「大衆から愛されていたにもかかわらず、現代ではほとんど存在しないことになっている明治娯楽物語は、現代の創作物にも影響を与えています。明治の先人と私たちの物語のルーツがそこにはあると思います」

(ライター・矢内裕子)

■書店員さんオススメの一冊

『ディスタント』は、現代美術作家ミヤギフトシさんが描く、新しい青春小説一冊だ。リブロの野上由人さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

*  *  *

 シャイな少年は街を出て写真家になる。沖縄の離島から那覇、大阪、ニューヨーク、そして東京。夢を追うというよりは、存在が許される場所を求めて、遠くに行かなければならなかった。現代美術作家による3編の連作小説。

 人と人との距離をミリ単位でコントロールしながら描く技術。触れるか触れないかの距離。これ以上は近づけない、見えないバリアがある。穏やかで端正な文章が、低温火傷のように痛みを残す。決して冷めているのではない、内部は熱いのだ。この感じ、小沢健二の2002年作品「Eclectic」にちょっと似ている。一言でいえば「エロい」。

 高校1年でレディオヘッドの「OK コンピューター」を買った世代。大学進学のためアメリカに渡るのは9.11の直後だ。その時代のサブカルチャーアイコンをちりばめて、読者の記憶を喚起する。

AERA 2019年7月1日号

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