




「どうしてそんなに怒っているの?」「なんで平気でいられるんだ……」。大なり小なり、どの家庭にもある夫婦の摩擦。同じ空間にいるのに、こうも感じ方が違うものなのか。違いを認めてお互い機嫌よく過ごすための心がけとは。
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「週に1度、山に行きたい」
夫が言い放った一言に妻が号泣するも、涙の理由がさっぱり分からない様子の夫。妻である30代の女性はこう話す。
「今、私は子育てに疲弊して、公的な育児相談先を探している真っ最中。その状況下での夫の要望に絶句しました」
女性は都内でコンサルタントとして働き、3歳と小1の男児がいる。仕事に加えPTA活動も忙しい。夫は、ハードワークだが自営業のため、休む日は自由に選べる。夫は泣きじゃくる妻に対してこう続けた。
「朝、保育園に送って夜中までに帰るから、僕の夕ごはんは必要ないよ。むしろきみは、楽になるんじゃない?」
夫は家事・育児を一通り可能な限りはこなしている。女性は夫のストレスを考慮して、夫の趣味である山に登るため、月に1度は1泊2日で地方に行くことも渋々認めている。それなのに、さらなる回数の上乗せをのんきに提案してくるとは……。
同じ空間にいるのに、なぜ夫はここまで感じ方が違って、とんちんかんなのか。私がちゃんと怒りを伝えられないからか。気持ちの落としどころが見つからず、恨みが積もる日々だ。
夫婦は、環境も経験も違う中で育ってきた他人。家事や育児に対しても価値観は違う。特に子育て中は、家庭内のタスクが膨大になるため、家庭内に“地雷”が山積している。夫婦が機嫌よく生活するには、相手の胸の内を知って行動することが大事だ。
映像制作会社で働く30代の男性は、妻との家事におけるすれ違いについてこう話す。
「包丁が野菜用と肉用と魚用に分けられていて……。僕は最後に肉や魚を切ればいいと思っていたんですが、我が家のルールでは食材別が徹底されていて、間違えると怒られます」
まな板やスポンジの使い分けを徹底する派と気にしない派も含めると、この手のすれ違いはかなり多い。
一方でこの男性は、妻の水の使い方が気になって仕方がない。作業の合間に、いちいち水を止めないからだ。男性は、歯磨きの間など水を出しっぱなしにしないよう親からしつけられてきた。東日本大震災のボランティアに参加したことで、さらに節水に対する意識が高まった。
「あの時の経験から、水を無駄に流せません。だから妻の水の使い方が気になって……」
今回の取材では、「食器洗いが雑」「洗濯物の干し方がおかしい」「基本、手を洗わない」など、我慢できる範囲だが気になる作法の“違い”が数多くあった。違いにイラッときているのは夫婦とも。男女差よりも、性格や育ってきた環境、経験の違いが影響しているようだ。(ライター・三宮千賀子)
※AERA 2019年7月1日号より抜粋