たかがダニとあなどるなかれ。かまれた結果、死に至ることもある。登山やキャンプなど夏のレジャーで注意したい「殺人ダニ」とは。
【写真】SFTSウイルスを媒介するマダニのひとつ「フタトゲチマダニ」
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3泊4日の予定で登山中、テントで着替えをしているときだった。神戸に住む40代の男性は、脇腹に直径1センチ近い黒い塊があることに気が付いた。ゴミかと思い、払ってみたがびくともしない。よく見ると脚が生えている。たっぷり血を吸ったマダニだった。口器はがっちり皮膚に食い込んでいる。引っ張ったり、ライターを近づけたり、虫よけスプレーを噴射したり、あらゆる手を試したが離れない。やむなく力を込めて引きちぎった。痛みはなかった。
翌日、脇腹が大きく腫れていた。下山後も様子を見ていたが、だんだんと化膿してくる。
「マダニをなめちゃダメ。下手すりゃ、死ぬとこでしたよ」
受診した皮膚科でそういわれ、ゾッとした。男性のケースは引きちぎった際にマダニの口器が皮膚内に残り、それが原因で化膿しただけだったが、マダニにかまれることでウイルスが体内に入り、重篤な感染症を引き起こすことがあるというのだ。
特にここ数年、マダニが媒介するウイルス感染症「重症熱性血小板減少症候群(通称SFTS)」が猛威を振るっている。東京都は5月15日、このSFTSに都内在住の50代男性が感染したと発表した。長崎県を旅行中にマダニにかまれて感染したとみられ、発熱・下痢・嘔吐などの症状を訴えて入院、その後意識障害を発症した。関東では初の患者だった。
SFTSは、2012年秋に初めて患者が見つかった新しい感染症だ。しかし、13年3月に全数把握が必要な四類感染症に指定されて以降、今年5月29日までに全国で421人の感染が確認されている。感染源となった地域も、石川から沖縄までの少なくとも23府県に広がった。発熱や嘔吐、全身の倦怠感などが主な症状だが、一部は皮下出血や消化管出血などの症状が起こることもある。有効なワクチンや治療薬はなく、日本では少なくとも66人が亡くなっている。単純計算すると死亡率は15%程度。それだけでも脅威だが、国立感染症研究所の前田健・獣医科学部長によると、実際の致死率はもっと高いはずだという。