一方、地上を走る在来線では、無人運転はもちろん、ATOもあまり導入が進んでいない。高架や地下を走る路線と違って踏切があるため、線路への侵入を警戒する前方確認が非常に重要なためだ。しかし、人口減少が進む中、鉄道事業者にとっては運転士の確保や養成が困難になってきており、在来線も含めた自動運転の導入は喫緊の課題となっている。
JR東日本は昨年12月や今年1月、夜間に山手線で、ATOを使った自動運転試験を実施した。実験には運転士が乗車して列車の発進やドアの開閉などは行うが、加速や減速はATOを利用した。将来的には、運転士が乗車しない準無人運転を目指している。
JR東の深沢祐二社長は4日の定例記者会見で、「今回の事故原因が解明された上で対策をしっかり行うのが必要」と念を押しつつも、「基本的にはドライバーレス(運転士が乗車しない)の自動運転を進めるという方向性については、引き続き、安全性をしっかり検証しながら進めたい」と強調した。
国交省も昨年12月から有識者による「鉄道における自動運転技術検討会」を開催。在来線を含めた鉄道全体の自動運転に関する技術基準の中間とりまとめにむけ議論を進めている。石井国交相は「一般的な路線の自動運転の検討については、シーサイドラインの事故の状況も十分に踏まえ、鉄道輸送の最大使命の安全確保を大前提として進めたい」との方針を示した。
ATOは、数百人が死傷した62年の旧国鉄常磐線の三河島事故後に全国に配備されたATS(自動列車停止装置)や、その後に開発されたATCがさらに進化したシステムだ。定時運行という日本の優れた鉄道サービスの実現にも貢献してきた。
ATOによる無人運行が普及すれば、鉄道事業者にとっての人件費削減というメリットが、乗客にとっての運賃値下げなどに反映される可能性もある。綱島教授はこう指摘する。
「事故でATOに懸念の声も上がると思うが、今回の事故は非常に特殊だ。原因究明や安全対策は必要だが、ATOに本質的に問題があるとは思っていない」
(ライター・小松武廣)
※AERA 2019年6月17日号より抜粋