高校はほぼ全員が大学に進学する県立の進学校だった。学費の心配があったが、施設の職員に「奨学金の制度もあるし、学力があるんだから大学を目指した方がいい」と背中を押された。
周囲が塾に通うなか、放課後は学校で閉門時刻まで勉強した後、近所の図書館に移動して午後8時まで勉強した。施設では小さい子どもたちもいて騒々しく、勉強に集中できないので、職員に頼んで、午後5時半の門限を特別に延長してもらっていた。
親にも施設の職員にも「勉強しなさい」と言われたことはなく、自分を律して勉強してきた。そんなときに支えになった一冊の本がある。小学6年生のときに読んだ『ひとりぼっちの私が市長になった!』。児童養護施設出身で茨城県高萩市長になった草間吉夫さん(52)の著書だ。
「施設にいた頃の葛藤とか、出た後の経済的な大変さやまわりの視線など苦しい環境を乗り越えて、誰もが挑戦しないようなことをやっていてあこがれました。施設から大学へ行く子は少ない。私も誰かを勇気づけられる人になりたいと思ったんです」(児童養護施設出身の女子学生)
こうした思いはあるが、自分の将来のことを具体的に考えるのは「うまくなくて」と話す。小中学生の頃は、将来の夢は施設の職員だった。でも、「家庭で育っていないから、施設の子に教えられることって少ないのかな」と考え、目指すべきではないと思った。ただ、子どもとかかわりたいという思いは変わらず、大学では「子ども・若者活動支援プログラム」を学ぶため、この春新設されたコミュニティ人間科学部を選んだ。
「施設で育ったことがマイナスではなく、プラスに変えられるような人生を見つけたいんです」(児童養護施設出身の女子学生)
青山学院大学の入試では、児童養護施設の施設長の推薦書と本人の志望理由書や学修計画書などの書類審査と面接で合否が決まる。白濱哲郎大学政策・企画部部長は言う。
「どの書類もとても熱心に書かれていて、点数なんてつけられません。不合格通知を受け取った子は希望を失うのではないかと心苦しいです。ただ、学生1人への支援は4年間で1千万円近くになり、1学年1、2人の受け入れが精いっぱいです。例えば全国の私立大学が施設出身者を1人ずつ受け入れれば、約600人が入れます。ぜひ他の大学にも入試制度が広がればと願っています」(白濱部長)