天皇、皇后両陛下は、5月27日午前、令和初の国賓となるトランプ米大統領と皇居で会見する。お二人にとっては、これが天皇、皇后としての皇室外交デビューとなる。雅子さまが外務省出身ということもあり、皇室外交の発展も期待されるが、ロバート・キャンベルさんは、AERA増刊「ドキュメント新天皇誕生」の中で、「別のことに期待すべき」と語る。
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国民統合の象徴としての天皇にとって、最も重要なことは「祈り」と「継承」です。祈りとは、この日本列島で暮らすすべての人々の安寧と安定と繁栄を祈ること。継承とは、天皇も一部を占める日本のさまざまな文化を、天皇が刻む歳月の中で継承していくことだと思います。
先の天皇は2016年のビデオメッセージでとくに「祈り」に関して、被災地訪問や慰霊の旅などの行動によって「祈りを充足するのだ」という非常に能動的なメッセージを伝えられました。反転させると、そこに「天皇とは何か」を逆に読み取ることができます。
メッセージの中で「寄り添う」という言葉を使われていましたが、これは皇居の中から祈り、思いを馳せながら寄り添うだけではなく、実際に当事者と会って言葉を交わすということ。それを皇太子時代からずっと続けてこられました。絶えず自分の目と耳と触感とで物事を確かめるという、きわめて実証的な資質をお持ちだった。
それをずっとそばで見てこられた新天皇も、その姿勢を基盤とされるのではないでしょうか。在位中に、災害など予想できない出来事も起きるでしょう。「祈りを充足する言動とは何か」を、雅子さまとお二人で模索していかれることで、「国民統合の象徴としての天皇とは何か」についての自らの理解が日々、少しずつ更新されていくと思うんです。
受け継がれるであろう「寄り添う」という言葉に加えて、私が令和の時代のキーコンセプトとして挙げたいのが、「多元性、多様性」です。日本はアメリカやブラジル、あるいはイギリスのように、国民が明らかに分断している状況にはまだありませんが、早晩、その力が働くであろう兆候はあります。人々が共通の土俵の上で物事を語り合ったり対立を超えて何かを作ったりしていくことが、困難になってくるかもしれません。そうした中で多元的で多様な社会を着実に実現していくには、戦後、どのような政治的対立にも与しない存在であり続けた天皇・皇后の存在と行動と言葉が、大きな力になるのではないでしょうか。