「私たち司法書士がまず苦労するのは、すべての財産を探し当てることなんです。ご家族も総動員で、心当たりのある銀行に念のための問い合わせを繰り返します」(井上さん)

 親との死別直後から慌ただしい手続きが始まる。死亡診断書は担当医師がすぐ作成してくれるが、死亡届提出の際や保険金請求など、複数の手続きで必要になるのでコピーを取っておきたい。死亡届の書類は葬儀会社が用意し、提出も代行してくれるケースが多い。

 自治体が死亡届を受理すると年金の支給が止まる。ただし自治体から金融機関には死去の事実が伝わらないので、故人の金融機関口座が直ちに凍結されるわけではない。3年前に父親を亡くした48歳女性は言う。

「父が亡くなると母は慌てて銀行で解約手続きを行い、その理由を聞かれて、『主人の葬儀の費用が必要で……』とバカ正直に答えてしまいました。するとその場で口座が凍結され、現金に困りました」

 故人のお金を引き出すにはすべての相続人の同意書と印鑑証明が必要だったうえ、細かな書類の不備を指摘されて、現金を受け取るまでに数カ月を要したという。なお、年金の振込先口座に関してだけは、支給停止となった時点で金融機関側がその理由を察知して凍結される。

 凍結にまつわる現金不足問題に対応し、国は相続時における預貯金の払戻制度を創設した。今年の7月1日以降は遺産分割が終了する前でも、一定の範囲内(死去した時点での口座残高の3分の1×引き出す人の法定相続分)でお金を引き出せるようになる。

 死去後の手続きの中でも、特に重要なのが相続税の申告だ。

「申告漏れがあると、追徴課税や重加算税が課されます。小規模宅地など、特例を用いて納税額を抑えられますが、遺産分割の完了が前提。分割協議が申告期限内(死去から10カ月以内)にまとまらないなら、特例を用いずにいったん相続税を納めるのも一考です」(長谷川さん)

 遺産分割を終えてから更正請求を行えば、払いすぎていた相続税が戻る。請求期限は申告から5年以内だ。

 長谷川さん、井上さんともに口をそろえたのは、手続きそのものは、リストを見ながらコツコツ行えば誰にでもできるということ。ただ、親が元気なうちに遺産をどう親族で分けるか決まっておらず、親の遺志もわからない場合が最ももめがちということだ。遺産分割さえスムーズにいけば、あとは書類の提出をこなせばよいだけなのである。

 なお、故人が利用していた金融機関の調査を含め、手続きをプロに任せてしまうのも手だ。「複雑な作業が発生しなければ一般的には15万円前後で依頼できます」(井上さん)

(ジャーナリスト・大西洋平、編集部・中島晶子)

AERA 2019年3月25日号

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