いつかは訪れる親との別れ──。悲しみに浸ってばかりはいられない。実に多くの手続きが必要だ。公的なものから相続まで、最期まできっちり送ることも親孝行だ。
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親が亡くなってから発生する諸手続きは、粛々と進めるしかないものばかりだ。上記のリストで自分に該当する項目がいや応なく降ってくる。
68項目(チャート参照)の中で「元気なうちに」のゾーンにあるものは、親が存命である限りは不都合が生じない。それだけに放置されがちだが、あのときやっておけばよかった……と後悔するケースが多い。昨年、父親が他界した男性(53)が振り返る。
「生前、父は仕事上の付き合いもあって、地方銀行から信用金庫、信用組合、農協、郵便局など、あちこちに口座を開いていました。それらの通帳を1カ所に保管していなかったうえ、記帳もロクに行っていなかったので、残高の確認が大変でした。大半は小銭しか入っていませんでしたが、メイン口座とは別にヘソクリ口座が二つも見つかったときは驚きました」
ヘソクリどころか負債が発覚するケースもある。
「父はバブル期に住宅ローンを組んで家を購入していたのですが、それが完済されていませんでした。しかも80歳で団体信用生命保険の期限が切れてしまっていたので、残債を清算できませんでした」(男性)
弁護士の長谷川裕雅さんにアドバイスしてもらった。
「故人が利用していた金融機関の口座が多いほど手続きも面倒になりますので、どこにどの程度の資産があるのかを存命中にはっきりさせておくのが理想です。本来はきちんと遺言書を作成しておくのが望ましいのですが、それが難しければ、せめて所有資産をノートなどに書いてもらうだけでも違います」
この男性は故人の口座をどうにか調べ上げることができたが、本当にこれで全部かは自信がない。転勤族でさまざまな地域の金融機関に口座を作っていた場合などは特に、完全に把握しきれないケースも考えられる。
ただ、所有資産の状況について親から聞き出すことに抵抗を感じる人も少なくないはずだ。司法書士の井上ゆかりさんはこんな策を提案する。
「あえて金額は聞かず、『万が一の際に手続きの漏れがあったら大変だから、口座のある金融機関の名前だけでもメモして、鍵つきの引き出しにしまっておいて?』と頼めば、親のほうもさほど抵抗を感じないはず。そのうえで、通帳類の場所をさりげなく把握しておけばOK」
ネット銀行やネット証券など、最近は紙の通帳や明細がもともと存在していないケースも。そういった資産を把握するために、それぞれのIDとパスワード、さらに親が使用しているパソコンをはじめとする情報端末のパスワードをメモに含めてもらうことも最低限の備えだ。