「このあたりは、僕らが“土庄町の表参道”と呼ぶほど(笑)、昔から一等地だったところ。芸術祭が始まると、今まで見かけなかったアート好きな若者も歩くようになり、昔の賑わいが戻ってきたかのようになります。アートは人を呼び、地域を輝かせてくれる。そう確信して、芸術祭が始まった翌年、ギャラリーを開いた。芸術祭があったからこそ、よし船を出そうと」
妖怪をテーマにしたのは、「小豆島にはたくさんの霊場があり、妖怪の言い伝えが多くあった」ことも理由のひとつだ。
「外国の人には、妖怪を通して、森羅万象に神が宿る日本人の精神文化にも触れてほしいです」(野村さん)
小豆島には、その昔、空海が修行や祈祷をした「小豆島八十八霊場」があり、ガイドブックをめくると、パワースポットとして人を引きつけている場所もたしかに数多い。
最も知られているのが、小豆島八十八霊場の54番札所である宝生院にある樹齢1600年とも言われるヒノキ科の巨木、シンパク。島の西端の山頂にある「小瀬石鑓神社」のご神体としてまつられている「重岩(かさねいわ)」も、パワースポットとして有名だ。
約350段の階段をのぼったあと、ロープをつたって山道を上がること約10分。過酷な移動で頭がぼーっとしたせいもあると思う。落ちそうで落ちない重岩に後光が差して見えた。
もうひとつ訪ねたのが、42番札所「長勝寺奥之院 西之瀧龍水寺」。細い道を上りきった山の上。さらにその上の断崖に護摩堂があり、この日はここでちょうどお遍路さんが、お経を唱えている最中だった。
その声が天空の護摩堂から山に響き、思わず手を合わせたくなるようなおごそかな空気が流れた。そんな中物欲全開で、シルバーのお守りリングを購入。ご住職が購入したリングにお経を上げて、こう言ってくれた。
「いいことがありますように」
今のところまだないが、きっとそこまで来てますね。(ライター・福光恵)
※AERA 2019年3月11日号より抜粋