歌舞伎の楽しさを広く伝えるため市川海老蔵らが立ち上げた六本木歌舞伎。第三弾となる今回の演目は、芥川龍之介の「羅生門」。海老蔵と共演するのは、歌舞伎初挑戦となるV6の三宅健だ。二人が作品への思いを語り合った。
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市川海老蔵:六本木歌舞伎は、中村獅童さんと「何か面白いことしようよ」というところから始まりました。1回目の「地球投五郎宇宙荒事」は、十八代目中村勘三郎のお兄さんから「寶世(海老蔵の本名)は、地球を投げるくらいしないとダメなんだよ」と言われたことがきっかけです。私も獅童さんもそれを覚えていて。地球を投げるなんて最初考えられませんでしたが、年齢を重ねてそれができた。2回目はまた全然違う「座頭市」。自分が挑戦したくてもできないことが、六本木歌舞伎では一つずつできるなと思っています。
三宅健:今回はどんなきっかけだったんですか。
海老蔵:「羅生門」は、演出してくださる三池崇史さんが考えられました。三宅さんもおっしゃっていたように、芥川龍之介のこの小説を読む時、読む人が何を積んできてどういう状況にあるかで、感じ方が変わる。世界の黒澤明はエゴイズムを感じてそれを映画化しました。三池監督もそう思われたし、私もそれでいいと思いました。職を失った下人が寒い中、羅生門の上にのぼって行こうと思ったら、何かが起こっている。お化けかなと思ったら人間? 老婆? というように、エゴイズムによって下人の心が変わっていくのが一番面白いところだと思います。
三宅:僕は人生でまさか歌舞伎に出演させていただくなんて考えたことがありませんでした。今も海老蔵さんとご一緒していることが信じられないくらいです。しかも、今回僕の役が下人と聞いてまたびっくり。今年1月に海老蔵さんの歌舞伎を拝見してご挨拶した時に、「本当にこの下人という役に全てがかかってます」と言っていただいて、責任重大だと思いました。
海老蔵:そこはやっぱり面白いところですから(笑)。下人の心が変わっていく姿の変化を繰り返す、ということが今回の一つのテーマだと思います。今までの歌舞伎では写実性がありすぎるのでできなかったこと。今回私の役の一つが下人に相対する老婆ですが、三宅さんが下人を演じることで私がやりたかった「心の写実」を客観的に見られることが嬉しい。今までにないことなので楽しみです。