給食が終わった午後1時すぎ。東京都足立区立中央本町保育園の年中(4歳児)クラスでは、部屋の一角が囲われ、布団が並べられた(写真参照)。園児2人が布団に入り、保育士がそばで見守る。しばらくすると寝息が聞こえてきた。
同じ部屋の中では15人ほどの園児たちが、ままごとやすごろく、カード遊び、紙の手裏剣づくり、ぬり絵などそれぞれ好きな遊びに夢中になっている。
多くの保育園では1~2時間ほどの昼寝が日課に組み込まれ、保育園での昼寝は「当たり前」とされているが、足立区は2011年4月から区立保育園の年長(5歳児)クラスの昼寝を廃止。その後、年中クラスでも一斉寝かしつけをやめた。昼寝が夜更かしにつながり、生活習慣が乱れる可能性があるからだ。
江戸川大学人間心理学科教授で同大睡眠研究所所長の福田一彦さんによると、米国睡眠財団の04年の調査で3歳の子どもの約40%、4歳の75%、5歳の85%が昼寝をしないことがわかった。福田さんらが12年に足立区で行った調査でも、3歳児でも7割が昼寝をしていなかった。
「昼寝をしないのは脳が成熟し、必要がなくなったからです。自然な状態で昼寝をしなくなった幼児を不自然に寝かしつけることは、歩ける子にハイハイを強要するようなもの。昼寝した分、夜更かしになり、朝の機嫌の悪さや寝不足感など心身の状態も悪化します。無理やり寝かされることが強いストレスになっている子どもも多い」(福田さん)
福田さんの研究によると、元保育園児は昼寝をしなかった元幼稚園児と比べて夜更かし習慣が小学3、4年生まで残り、5、6年生で就寝時刻は差がなくなるが、朝の行き渋りの頻度は元保育園児のほうが高いという。
足立区では、昼寝廃止直後、保護者から「子どもが夕飯も食べずに眠ってしまった」「子どもが帰りの自転車で寝ていた」といった報告や相談もあったが、2週間ほどで昼寝なしの生活に慣れ、夜の寝つきが「とても良い」が2倍以上になり、寝かしつけずに自分で寝る子も増えたという調査結果も出た(グラフ参照)。