山村美智さん作の舞台に、池田理代子さんが立つ。それぞれの道を極めた女性たちによる新たな挑戦だ。
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「理代子さん、こちら(のセット)で歌ってから降りていただいてはいかがでしょう?」
「そちらだと上半身しか(お客さまに)見えないの。『ある晴れた日に』のアリアは、蝶々夫人の全身にピンスポットを当てるのが慣例なので、最初からこちらで歌った方がいいんじゃないかしら」
1月中旬、昨年4月と11月に好評を博した舞台「蝶々夫人とスズキ」の稽古場を訪ねた。元フジテレビアナウンサーで俳優の山村美智さん(62)と、劇画家でオペラ歌手の池田理代子さん(71)が、2月の公演に向けて一つひとつの動きを丁寧に確認していた。今回、公演場所が東京・六本木のレストランからドイツ文化会館OAGホール(同港区)へ。収容人数250と規模が大きくなるだけに、確認作業も少なくない。
本作はプッチーニの名作オペラ「蝶々夫人」をベースに山村さんが執筆。オペラと山村さんによる一人芝居を融合させて新しい世界を作り上げた。
初演では、蝶々夫人をニューヨーク在住のオペラ歌手・田村麻子さんが演じて大盛況だった。「これで終わらせてはダメ」という周りの声に押されて、山村さんは公演続行を決意。だが、田村さんが米在住ということもあって新たなキャストを抜擢(ばってき)する必要があった。そんな中、山村さんの頭に思い浮かんだのが、「楚々(そそ)として歌う池田さんの姿だった」と振り返る。
「理代子さんは劇画家として成功していたにもかかわらず、改めて大学に行かれてからオペラ歌手になられた。それは本当にすごいこと。そういう理代子さんの歌を私自身が聴きたいと思ったんです」
山村さんは自ら池田さんのホームページを通じてオファーした。ところが、池田さんから来たのは「丁重なお断り」(山村さん)。実は池田さん、「オペラはもうやらないと決めていた」と言う。年を重ねれば歌詞が抜けたり出を忘れたりする。ソロでリサイタルは行うが、オペラでは相手に迷惑をかけることがあるからだ。だが、山村さんは諦めなかった。