樋口彩夏さん(29)/治療後14年経つが、副作用や後遺症のための入通院は続く。死にたいほど落ち込んだ時期もあった。当事者視点の発信に力を注ぐ。「小児がんは、治って終わりじゃない。晩期合併症と向き合う人も前を向いて生きていける社会にしていきたい」(撮影/中村正太)
樋口彩夏さん(29)/治療後14年経つが、副作用や後遺症のための入通院は続く。死にたいほど落ち込んだ時期もあった。当事者視点の発信に力を注ぐ。「小児がんは、治って終わりじゃない。晩期合併症と向き合う人も前を向いて生きていける社会にしていきたい」(撮影/中村正太)
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小児がん医療支援のチャリティー活動「レモネードスタンド」で手作りされたグッズやカード(撮影/横関一浩)
小児がん医療支援のチャリティー活動「レモネードスタンド」で手作りされたグッズやカード(撮影/横関一浩)

 80%が治ると言われるようになった小児がん。だが、「その後」も影響が続くことはあまり知られていない。

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「あったかいレモネードはいかがですか?」

 1月中旬、フットサルの試合が開催された小田原アリーナ(神奈川県)の会場で、高校2年生の浦尻一乃(うらしりいちの)さん(17)が呼びかけた。患者団体「神経芽腫(がしゅ)の会」がチャリティー活動の一環で企画した「レモネードスタンド」。闘病を経験した子どもらが店頭に立った。

 浦尻さんは、神経の細胞にできるがん「神経芽腫」を5歳で発症。手術や抗がん剤治療を受けた。だが10歳で再発し、さらなる治療を乗り越えた。

 抗がん剤治療の影響で筋肉がつきにくくなった。骨密度が低くなり、走れば膝が激しく痛む。背がなかなか伸びない「低身長」も小児がん治療後に見られる合併症の一つで、浦尻さんは小学校高学年になっても身長は120センチ台だった。

「小学生の頃は、男子とか、デリカシーのない時期。揶揄(やゆ)されるとすごい嫌で。まわりの目が一番嫌だったかな。学校では我慢して、家で泣いていました」

 10代になってからの大きな悩みは、腸の障害で排泄(はいせつ)のコントロールが利かなくなったこと。授業中にトイレに駆け込むこともある。登校途中でおなかの調子が悪くなり、遅刻することもしばしばだ。

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