若い世代を中心に、このところ他者の視線に耐える力が下がってきた。SNSで盛った自分と現実とのギャップも自信を失わせるからだ。だが視線はコミュニケーションの出発点。人生の可能性も狭めかねない。
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都内の出版社で働く男性(30)は1年ほど前、視線が合わないことを同僚に指摘された。
「何を考えているのかわからなくて、話しづらい」
なんとなく人と目を合わせるのが苦手だという自覚はあったが、気にしたことはなかった。
「就職の面接などでは、多少無理をすれば目を合わせて会話できます。でも、普段はわざわざ合わせないし、それが普通だと思っていました」
ずっとうつむいて話すのは印象がよくないという意識はあるので、目ではなく鼻を見たり、何か考えるときは斜め上に視線を向けたりする。友人や恋人と2人で飲食店に入るときは、カウンターとテーブルが選べるなら必ずカウンター席にする。
それでも、特に人付き合いが苦手だという意識はないという。社会人になってから学生時代の友人の多くとは疎遠になったが、仲の良い友人は何人かいるし、仕事もそれなりに順調。2年前に手掛けた書籍は、中小の出版社としては大健闘といえる発行部数5万部に達した。話を聞く限り、自己肯定感は低くなさそうだ。それでも、目を見て話すことには抵抗がある。
「同僚には指摘されましたが、今まで大きな不都合を感じたことはありません。そもそも、じっと見られるのってイヤじゃないですか? 目をそらして話すほうが楽だし心地いいんです」
相手の目を見て話すと、必要以上に緊張して落ち着かない。
視線耐性とは、「他者に見つめられたとき、自然体でいられる力」を指す。若い世代ほど高い比率で自覚し、ネット上では、
「視線耐性がないから、目を見て話せないわ」
などと使われている。
視線耐性が低いと、相手にどう見られているのか不安に感じ、その不安から視線を合わせられなくなる。相手に見られていることを強く実感してしまうからだ。それ以外にも、行動が制約されたり、落ち着かなくなるなどの具体的な動作となって表れたりする。