母と弟は、神妙な面持ちで下を向いていた。明らかに食卓には白けた空気が漂っていた。

 女性も、わざわざ韓国の話題を持ち込むつもりもなかった。ただ、スルーできなかったのは、今、お付き合いをしている彼が、同じ大学に通う韓国人の留学生だったからだ。家族はそのことを知らない。

「父は国際政治に興味があるわけではないんです。だから余計になぜ、韓国だけに目くじらを立てるのかが理解できない。とても彼のことを紹介なんてできませんよ。父とテレビを見るのはもう嫌だと思いましたし、あの会話以来、明らかに父との間に微妙なわだかまりが生まれました」

■韓国人と深く関わるな

国立大学に通う別の女性(20)は冬休み、1人で韓国に旅行する計画を立てていた。女性は全米チャート1位を獲得した人気グループ「防弾少年団」の熱心なファン。電話で実家の母に旅行のことを話したところ、後日、普段は電話をかけてくることのない父から着信があった。

「韓国旅行を見合わせてくれ」

 いったいなぜ?

「韓国は信用できない。だから、1人で旅行に行ったら何をされるか分からないというんです。あっけにとられました。なんでそう思うのか聞き返すと、韓国海軍のレーダー照射事件の話をされました」

 父は地元の電機メーカーで技術者として働いている。無口で穏やかな人で、他人に暴言を吐いたり、傷つけたりするような性格の持ち主ではない。

 昔、実家の近くには中国人や韓国人が多く働く工場があった。父は日本語が苦手な子どもたちに、ボランティアで日本語を教えていたこともある。そんな父の口から「韓国は信用できない」という発言が飛び出すとは夢にも思わなかった。

「どうしても韓国には行きたかったので、友だちと行くとウソをついてやり過ごそうとしたんです。すると今度は、ホテルや飛行機のキャンセル代は自分が払うので、旅行そのものを取りやめてほしいと。そして、最後にこう言われたんです。できれば、韓国人とは深く関わってほしくないって」

 女性は驚いたが、韓国を毛嫌いする人がいるということは理解していた。というのも、同世代の友人の間でも、「Kポップにハマっている」と堂々と公言できない空気を最近になって感じ取っていたからだ。

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