■韓国好き隠して暮らす
女性が大好きな「防弾少年団」は昨年、原爆のキノコ雲をプリントしたTシャツを着用して批判され、「反日」のレッテルを貼られた。
「今やエンタメの世界にまで政治的な見方が介入してくるのです。どのアーティストがどんな発言をしたのか。監視の対象はアーティストが創作した歌謡曲の歌詞にまで及びます。愛国を歌ったアーティストは賛美される一方、隣国と仲良くしようと歌うと非国民としてネットの世界ではつるし上げられます」
同世代の友達同士でも、韓国に対して相手がどう思っているか分からない恐怖がある。だから自分のスマホに入っている音楽のほとんどがKポップだという事実は、誰にも明かしていない。唯一、匿名アカウントを使っているツイッターでは、堂々と同じ趣味のファン同士でおしゃべりをすることができる。
「私たちの世代は、生まれた時からKポップや韓流ドラマが、Jポップや月9に引けをとらないエンターテインメントとして認識されていました。だから、友達が乃木坂46にハマるように、私もKポップにのめり込んだ。韓国と日本はどちらが上とか下ではなく、生まれた時から対等な国で、今の私には憧れの国でもあります」
女性の母(67)も、かつては「韓流ドラマ」のファンで「冬ソナ」にハマっていた。当時中学生だった女性は、あのピアノのイントロが流れてくるだけでうんざりしたものだ。
「かつては」というのは、今はどちらかというと父と同じく、韓国に対してネガティブな印象を持っているからだ。女性は母の心境をこうおもんぱかる。
「韓流ドラマって複雑な日韓の過去や政治を反映しているわけではないから、何も考えずにのめり込める。ただ現実社会はそうはいかない。なんで日本が一方的に悪く言われなくてはならないのか。政治の複雑さに耐えきれなくて、本当は無関係のはずの韓国カルチャーさえ嫌いになってしまうのだと思います」
実は、父は当時から韓流ドラマにのめりこむ母をよく思っていなかった。だから、自分の韓国行きにも執拗にストップをかけたのではないか。結局、女性は両親に内緒で旅行を決行した。話し合いで解決できる自信がなかったし、そこに労力をかける意味も見いだせなかった。
この女性のように、家族から韓国への旅行や留学を反対される例は多いと大手旅行会社の社員は打ち明ける。とくに従軍慰安婦や竹島など、両国のナショナリズムをあおる事件が起きた時は顕著で、社外秘の対応マニュアルまで存在するという。