昨年12月に鳴り物入りで上場したソフトバンクの株価が振るわない。上場直前に吹き荒れた逆風の影響は大きい。ジャーナリスト・石川温氏が解説する。
* * *
「本来なら夏には上場しているはずだった。残念だ」
昨年12月19日、上場会見に登壇したソフトバンクの宮内謙社長はそう苦虫を噛み潰した。これまでソフトバンクグループ(SBG)の完全子会社として国内の通信事業を手がけてきたが、東京証券取引所第1部に上場した。
調達価格2.4兆円という史上最大規模の新規上場。しかも投資家から人気の高いSBGの孫正義会長兼社長が繰り出した「勝負手」とあって、市場の期待と注目を集めたが、初日の終値は公開価格の1500円を大きく割り込む1282円という厳しい結果に。上場の祝福ムードは吹き飛んだ。
「マーケットの反応を真摯に受け止めて、ここをスタート地点として企業価値向上に努めて参りたい」
低調な滑り出しについてそう語った宮内社長。だがはた目に見ても、ソフトバンクの上場はタイミングが悪すぎた。
上場を控えた昨年8月、菅義偉官房長官が札幌市内の講演で「携帯電話料金は他国に比べ高すぎる。4割値下げできる余地がある」と発言。政権の幹部が業界を名指しして料金引き下げを促したことに、業界内では業績悪化への懸念が広がった。
そして10月、業界最大手のNTTドコモが、官房長官の発言に呼応するかのような発表に踏み切った。
「2019年春に2~4割値下げを実施する。4千億円規模の顧客還元を計画する」(吉澤和弘社長)
携帯電話業界の収益悪化は、もはや懸念ではなく現実となりつつあった。
12月になると、ソフトバンクは社内外で次々に起きる大問題に翻弄された。
12月6日には3千万人以上に影響を及ぼした通信障害が発生。これにより、利用者1万人近くがソフトバンクとの通信契約を解約した。
また、ソフトバンクが通信設備を使用している中国・ファーウェイを、アメリカが市場から排除しようとする動きが世界的に広がった。日本政府も政府調達からファーウェイ製品を排除するだけでなく、次世代通信サービスとなる「5G」で免許を与える際には中国メーカーの使用を認めないような動きも見せている。