記者会見ではゴーンを指弾した西川だったが、彼が当初からこの内偵チームと緊密に連携し、謀反を策謀していたかどうかは定かではない。押し出しが強いゴーンに対し、西川はまじめで物静かな実務家タイプ。リーダーシップを発揮する男ではない。

「だから今回はよくやったと思うよ。これまではゴーンをずっと立ててきたけれど、さすがにおかしいなと思ったのだろう。今回は腐敗を知って立ち上がったということじゃないか」。内偵チームの動きに共感する日産幹部はいま、西川をこう評価する。いわば西川は、フランスの「植民地支配」から独立を目指す民族派の期待の星なのだ。

 こうした公私混同の醜聞とは別に、日産社員には看過しえない事態が進んでいた。

 ゴーンは2月、ルノーのCEOを留任することで大株主の仏政府と合意。だがその見返りに仏政府と交わしたとされる約束は、日産とルノーを不可逆な関係にするというものだった。

「不可逆とは経営統合を視野に入れたものだ」。日産幹部は直感的にそう感じた。1999年、倒産寸前の日産を救ったのがルノーだ。いまも43%の日産株を持ち影響力がある。だが売上高や販売台数などの実績では日産が上回る。小が大を従えるいびつな構造だ。ルノーの支配を弱め、日産の独自性を高めたいというのが日産の古参幹部の共通の悲願だが、ゴーンが牛耳る以上、極めて困難な情勢だった。

 ゴーンは次第にルノーとの経営統合をちらつかせ、日産社員に危機感が一気に高まった。側近として支えてきた西川でさえ、この動きには反発したという。

 二人のずれが垣間見えたのが、6月26日にあった日産の株主総会だった。この頃には、すでにルノーと日産が経営統合するという観測記事が報じられていた。ゴーンが総会で3社連合の「持続性を担保する手段は複数ある」と含みを持たせたのに対し、西川は「それぞれの会社の独立性と自律性を堅持し、尊重しつつ対等なパートナーとして協力したい」と、それとは距離を置く言い方をした。あえて独立性や対等といった言葉を選び、統合に傾きつつあるゴーンを牽制しているかに見えた。

「ゴーンと西川に少しずつ溝が深まっていると感じた。西川はルノーの傘下に甘んじることに絶対反対だった」

 日産幹部はこう分析する。

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