映画は、世代も性別も超えて絶賛する声が多い。元「ミュージック・ライフ」編集長の東郷かおる子さん(70)は「名画かどうかは分からないけれど、いい映画であることは確か。あれだけの観客を動員しているんだから」と言う。
ドキュメンタリーとは違う、この高揚感は歌舞伎の忠臣蔵にも似ている。史実がベースだが現実とは異なる物語の世界。だが、伝わってくる感情は本物だ。
晩年のフレディは病に侵されながら、命の限りを音楽に捧げた。死期が迫るなかでビデオに収録された、おそらく最後のインタビューをこう結んでいる。
「僕にとって一番大切なことは幸せでいること。自分で犯した過ちは自分で償うしかないんだ。自分らしく生きるまでさ。残された年月をできるだけ生き生きと楽しく過ごそうと思う」
クイーンの黄金期を知らない世代が映画に涙し、ライブに胸躍らせているのは素直にうれしい。美形の若きロジャー・テイラーにときめき、似顔絵を描いたり、写真を集めたりする女性たちは昔の私たちにそっくりだ。
このブームはいずれ去る。それでもいいのだ。クイーンは人の心の奥底で生きる力を与えてくれる。少女のころ、周りに理解されなくても、愛し続けた私たちに、彼らの音楽がずっと寄り添ってくれていたように。(ライター・角田奈穂子[フィルモアイースト])
※AERA 2018年12月17日号より抜粋

