DIC川村記念美術館で「言語と美術──平出隆と美術家たち」が開催中だ。平出の読み解きで再構築された言葉の空間は、独特の浮遊感がある。
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DIC川村記念美術館(千葉県佐倉市)は、首都圏でありながら約30万平方メートルという広大な敷地に建ち、レンブラント、モネ、ルノワールのほか、ロスコやポロックなど、現代美術のコレクションで知られる。
今回の展覧会が注目されるのは、詩人・作家であり装丁家でもある平出隆(68)を中心とする企画であることだ。平出は福岡県から上京して一橋大学入学後、神田神保町にある「美學校」にも通い、博物細密画を学んでいる。平出の活動は多彩で、1970年代はじめに詩人として注目され、その後批評やエッセー、さらには小説へと執筆の範囲を広げていった。一橋大学を卒業後は河出書房新社へ入社、文芸誌「文藝」の編集者として、渋沢龍彦や川崎長太郎を担当する(その後退社)。
その一方で早くから美術家たちと交流を重ね、自らも本の装丁や出版を手がけるようになった。彼の手から生まれる本は、言葉を生かすデザイン、印刷、製本、特異な流通手法など、すべてに特別な情熱を感じさせる。手軽で雑駁(ざっぱく)な言葉がネット空間に高速で流れていく現代では、非常に珍しいことと言える。
今展は美術家たちが生み出した堅固な言葉を、平出の読み解きとデザイン、再構成によって提示している。加納光於、中西夏之、若林奮(いさむ)、ジョゼフ・コーネル、瀧口修造、ドナルド・エヴァンズ、河原温、岡崎和郎(かずお)、奈良原一高(いっこう)らの作品と言葉が、新たな表現を加えられて目の前に現れる。
空間構成は建築家の青木淳が担当した。展示室は五つの空間に分けられ、4室で各2人ずつの作家の作品が展示されるほか、中央部には平出自身の制作物が展示されている。平出はかねて「空中の本」という概念を持ち、たとえば誰かに郵便ではがきや封筒入りの手紙を送るといういとなみを、「空中の出版行為」だと考えてきた。