各国が国際的な問題を話し合い、解決策を見いだすべき首脳会議。アルゼンチンで12月1日に閉幕した主要20カ国・地域(G20)首脳会議は、自国第一主義の台頭で存在意義が形骸化する危うき姿を浮き彫りにした。
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閉幕を受けて、記者会見もせずに、あっという間に帰国の途についた米国のトランプ大統領が、全てを象徴していた。
11月30日から2日間の日程で開かれたG20首脳会議。貿易不均衡問題で対立する米中首脳会談の行方や、米国による保護主義への対応が最大の関心事だったG20だが、経済問題とは別の大きな懸案事項が二つあった。
一つは、サウジアラビア人記者カショギ氏殺害への関与が疑われるサウジのムハンマド皇太子が出席したことで、真相解明に向けて各国首脳がどう対応するか。もう一つは、ロシアによるウクライナ艦艇の銃撃・拿捕(だほ)事件だった。とりわけ、銃撃・拿捕事件はG20開催直前に起きたばかり。欧米各国の安全保障にも関わる事件で、主要8カ国(G8)首脳会議からロシアが除外される理由となった同国によるウクライナ南部クリミア半島の一方的な併合(2014年)に起因する問題だ。欧米首脳には看過できない重要課題のはずだった。
事件が起きたのは11月25日、ロシアの国境警備隊が、クリミア半島の近海を航行中だったウクライナ軍の艦艇3隻に発砲し、乗組員を拘束した。ウクライナは「ロシアによる地上侵攻に備える」として同28日から30日間、半島に接する地域に戦時法を適用し、今も臨戦態勢にある。ロシアは併合を機に半島を実効支配しており、すでに配備済みの地対空ミサイルシステムに加え、最新鋭地対空ミサイル「S400」の配備を発表するなど要塞(ようさい)化を進めている。
14年以降、ロシアとの首脳会談のたびにオバマ大統領(当時)が問題提起してきたクリミア併合だが、自国第一主義のトランプ大統領はあまり興味を示さない。同主義の大先輩であるプーチン大統領との個人的な関係強化を重視するトランプ大統領は6月末、クリミア併合を認める可能性を排除しないととられかねない発言をして、ホワイトハウス幹部が慌てて否定したほどだ。今回の事件を理由に、G20で予定された米ロ首脳会談の中止を急遽決めたトランプ大統領だが、本当の理由は別にあったとみられる。