国際問題の解決に積極性を見せないトランプ大統領も、これまでのG20の首脳宣言に必ず含まれてきた「保護主義と闘う」という文言の削除に影響力を発揮するなど、自身の主義は貫いた。各国が国際問題に関与、協力して解決策を見いだそうとするグローバリズムの象徴であるべき首脳会議が、自国第一主義に執着する一部の国に主導権を握られ、譲歩まで強いられる。自国第一主義の台頭が、首脳会議の意義や本質を形骸化させるまで深刻化している。

 ただ、それでも米国は完全にトランプ化したわけではない。

 トランプ大統領が首脳会議に出席していた12月1日、マティス米国防長官はカリフォルニア州であった国防フォーラムで、ウクライナ船の自由な航行を約束した03年の合意にロシアが「白々しく違反した」と非難。11月に投開票された米中間選挙にもロシアは介入しようとしたとして、激しくプーチン大統領を批判した。

「我々は簡単には信用できない人間に対応している。米ロ関係は明らかに悪化している。民主的なプロセスを腐敗させようとする彼の行動に対抗しないといけない」

 そんなマティス国防長官が自国第一主義をめぐり、トランプ大統領に突きつけた言葉が、前出の暴露本『FEAR』に記されている。今年1月19日に開かれた国家安全保障会議での一幕。トランプ大統領が、韓国や台湾、中東や北大西洋条約機構(NATO)の防衛のため、米国が巨額の費用を拠出していることを無意味とし、なぜ直ちに中止できないのか、長々と持論を展開していた時のことだ。

 金銭的な損得勘定しか理解せず、安全保障や情報収集に欠かせない同盟国の重要性を軽視するトランプ大統領に、しびれを切らしたマティス国防長官が発した一言が、大統領を沈黙させたという。

「第3次世界大戦を防ぐために我々はやっている」

 国際協調の重要性を説いてきた閣僚たちをトランプ大統領は次々と更迭してきた。それでもマティス国防長官ら数人の良識人は政権にまだ残っている。国際協調主義と綱引きをしながら、それでも自国第一主義の勢いがますます強まっていくトランプ政権。それがまさにG20という首脳会議の舞台でも垣間見えた現状から、国際情勢の行く末に不安を感じた。(アエラ編集部・山本大輔)

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