尾原和啓(おばら・かずひろ)/IT批評家。楽天の執行役員をはじめ12社で新規事業立ち上げなどに従事。現在はバリ島を拠点に活動
尾原和啓(おばら・かずひろ)/IT批評家。楽天の執行役員をはじめ12社で新規事業立ち上げなどに従事。現在はバリ島を拠点に活動
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 転職経験者なら、辞めてしまった会社とは関係が気まずい……なんていう思いをしたことがあるかもしれない。しかし、『どこでも誰とでも働ける』著者の尾原和啓さんは、転職を繰り返しながらも、関わった各企業と良好な関係を続けることにメリットを感じているという。

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 マッキンゼーでキャリアをスタートしたあと、NTTドコモやグーグルなどこれまで12の会社で働いてきました。多くの会社と今も関係が続いていますし、リクルートには2回勤めました。心がけてきたのは辞めた会社にも「ギブ」し続けること。関係を絶たずに、人を紹介したり、有益な情報を提供し続ければ「あいつはやっぱり役に立つ」と思ってもらえる。相手のためにもなるし、回り回って自分に返ってきます。会社と個人はゼロイチの関係ではなく、0.1や0.3の関わり方があってもいい。外で前の会社を悪く言うのは、それは自分の価値を下げる。転職を裏切りと見る会社もありますが、自分から壁を壊していれば、やがてわだかまりは解けます。

 私は自分からギブすることが最強の戦略だと考えています。自分のスキルを提供することで、金銭的な見返りがなくとも、経験、スキル、人望といったもっと大きな見返りが手に入る。相手に与え続けることができれば「どこでも誰とでも」働けるんです。

 終身雇用制は終わり、会社と個人の関係は対等になります。お互いにメリットを提供しあう関係でなければいけない。転職するときには、自分の価値を提供しながら、次に価値を出せる知識やスキルをインプットできる職場を選ぶといい。例えば私はドコモからグーグルへ転職をしましたが、当時グーグルにはモバイルプラットフォームに詳しい人が少なかった。ドコモでのモバイル事業立ち上げの経験を提供し、代わりにグーグルで私は苦手だった英語をものにし、グローバル市場への切符を手に入れました。

 ひとつの専門で生きられる時代ではありませんから、自分の価値は自分で稼ぎ続けていく必要があります。

(聞き手/編集部・高橋有紀)

※AERA 2018年11月19日号