「王位を投げ出したエドワード8世(退位後は、ウィンザー公爵)に戴冠式に参列してもらっては困る、と英政府や王室は考えたのです。一方で、新王や新女王の母である王太后が出席を望むのも理解できる。そこで、線引きを明確にするために、他国を含み、引退した王や女王は式に参列できないとした経緯があります」
それは現役の国王や女王の参列にも影響した。
エリザベス女王の戴冠式を控えた1952年。ウィンザー公爵は「イギリスの国王もしくは女王の戴冠式にはいかなる国の元首もしくは前元首も出席しないという慣習に反するため、1953年6月2日にウェストミンスター修道院(寺院)での戴冠式には出席するつもりはない」という声明を出したという。
■戴冠式も人脈を培う場
さらにいえば、新王や新女王が親交を深めるべきは、各王室の次世代の王や女王となる王子や王女たちだ。戴冠式で参列するのも、将来パートナーとなる王室メンバーのほうが、互いにメリットがある。
日本でもこの慣習に従い、エリザベス英女王の戴冠式には、当時皇太子であった上皇さまが出席した。
平成の時代も、皇太子であった天皇陛下は2008年、トンガ王国のツポウ5世国王の戴冠式に参列。13年にあったオランダのウィレム・アレクサンダー国王の即位式と15年のツポウ6世国王の戴冠式には、皇太子ご夫妻であったお二人がそろって参列している。
しかし、今回の戴冠式で王冠を授けられる新英国王チャールズ3世の場合は、やや事情が異なるのだという。
「74歳であるチャールズ3世は、20代から母のエリザベス女王を助け、外交歴は50年以上になる。つまり、各王室にお友達が非常に多い新国王です。しかし、即位が遅かったため、親交をはぐくんできた同世代の王子や王女たちは、すでに各国の王や女王に即位しています。そもそも英王室から届く戴冠式の招待状は、招待する相手を指名していないはずです。英王室が取り決めた慣習は存在するものの、双方でより理にかなった事情があれば、誰が出席してもよい性質のものだと理解しています」