シェフにとってキッチンは聖域、秘密主義と思われがち。しかしデュカスは断言する。「私には隠すことは何もありません。全く何も隠していません」と。

 フィリピンでは恵まれない若者のために学校も設立した。

「偶然にもアメリカで料理学校に通っている若いフィリピンの生徒に出会い、彼が自分の国でもこういった教育が受けられたらと言ったのです。それでフィリピンに学校を設立しようと思ったのです。他の国にも開設したいと思います。私の究極の目的は、自分の知識を提供し、分かち合うということなのです」

 教育に加えて、デュカスは文化という畑にも大きく貢献する。ヴェルサイユ宮殿に出店したレストラン「Ore(オーレ)」では、大きな経済的リスクを負う。

「同業者は誰一人としてやりたいと言わなかった。多額の費用が必要となるからです。出資してもレストランが自分の所有にはならず、運営するライセンスがもらえるだけ。経済的な恩恵はあまりない。にもかかわらず、私はこの大きな挑戦に取り組んでみたいと思いました」

 18世紀のルイ16世時代のレシピを現代に蘇らせる料理の創作に意欲を燃やす。
大統領夫妻をもてなす

 映画にはオランド前仏大統領との会席シーンや、マクロン仏大統領夫妻とトランプ米大統領夫妻をもてなすシーンも出てくる。シェフが国交や政治と深く関わりあう、フランスならではの光景だろう。それは食が芸術であるから?

「全くその通り。ガストロノミー(美食学)はお金儲けと考えられがちですが、芸術なのです」

(在英ライター・高野裕子)

AERA 2018年10月22日号