


AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
【棚橋弘至主演映画「パパはわるものチャンピオン」の貴重な場面写真はこちら】
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■いま観るシネマ
試合での負傷により、心ならずもヒール(悪役)に転向したかつてのエースプロレスラー。自分の職業を息子に隠していたのだが、ある日知られることになり──。
仕事での葛藤を抱える父親と、そんな父親に対する愛情と反発で揺れる息子の両面の視点から描かれた本作は、新日本プロレスの人気レスラーが多数出演する。父親の大村孝志を演じるのはベビーフェース(善玉)のトップレスラー・棚橋弘至さんだ。
「職種に関係なく共感してもらえると思います。やりたい仕事につけている人は本当にごく一部。多くの社会人が抱えている問題ですよね」
今回演じてみて、ヒールの大変さを感じたという。
「ヒールのテンションが下がるとお客さんも下がるので、気がぬけない。試合をコントロールするのはヒールかもしれません」
大村のタッグパートナー役の田口隆祐選手の名脇役ぶりなど、プロレスファンとしても嬉しいシーンも多いが、むしろ普段プロレスを観ない人にこそ観てほしいという。
「マジョリティーの問題を、マイノリティーであるプロレスが答えを出すというところにダイナミズムがあると思います」
父親の職業を級友に聞かれてうっかり人気レスラーの名前を言ってしまい引っ込みがつかなくなる息子の「大好きなお父さんにはカッコよくいてほしい」という気持ち。かつての栄光の記憶にひきずられ現在の自分に誇りを持てないでいる父親──。父子はそれぞれの立場で葛藤しながらも、最終的に自らの現実を引き受け和解に向かう。親と子、どちらの立場からも共感できるストーリーは、親子での映画鑑賞にうってつけだ。
「今の仕事に迷いがあるなら、自分の仕事にもう一回向きあえるし、家族サービスにもなる。子どもは親が普段どんな思いで仕事をしているかわからないけれど、この映画を通して感じることができる。この映画を観せることによって、劇場から出る時に無条件で子どもからのリスぺクトを勝ち取れるんです(笑)。家族サービスして喜ばれる、子どもからのリスぺクトも勝ちとれる。日本全国のお父様方、チャンスです」
◎「パパはわるものチャンピオン」
9月21日(金)から全国公開。大村の妻役で木村佳乃、息子役で寺田心が出演。原作は同名の絵本。
■もう1本 おすすめDVD「カリフォルニア・ドールズ」
今年生誕100年を迎えるアメリカの映画監督、ロバート・アルドリッチ。「合衆国最後の日」(1977年)など男くさい作風で知られるが、遺作となる本作で、巨匠は闘う女たちを描いている。
ブロンドとブルネットの女子プロレスラーコンビ「カリフォルニア・ドールズ」とマネジャーの3人は、ポンコツ車でのドサ回りの日々。ファイトマネーを値切られ、時には見せ物のような試合にも出ざるを得ない。巡業先のモーテルでも眠れぬ夜が続く。でも彼女たちは諦めない。チャンピオンになるという夢があるから。
「利口な女はバカな男に弱いらしいぜ」と陰口をたたかれてしまうピーター・フォーク演じるマネジャーは、時に姑息な手を使いながらもドールズをチャンピオンにするという彼の夢を追う。
ラストのチャンピオンシップをかけた大試合の真上から俯瞰したショットに興奮する。女同士の友情とダメ男の純情に瞼が熱くなる。ドールズの好敵手役でミミ萩原とジャンボ堀が出演している。
◎「カリフォルニア・ドールズ」
発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
価格1429円+税/DVD発売中
(編集部・小柳暁子)
※AERA 2018年9月24日号