近年叫ばれている「働き方改革」だが、その効果を実感している人は少ないのでは。幸福学を研究している前野隆司・慶應義塾大学大学院教授によると、その原因は“順番”にあるという。
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幸福学を研究している私のもとには最近、企業から「働き方改革がうまくいかない」という相談が数多く寄せられています。失敗の原因は、順番を間違えているからです。
多くの企業が陥りがちなのが、「残業時間を○時間減らせ」というトップからの指示で「業務を効率化せねば」→「創造性・生産性を上げろ」→「何かアイデアを出せ」というパターン。社員は「やらされ感」でいっぱいです。
「幸福の4因子」理論で言えば、人は自らの「やってみよう」という意思で仕事に取り組めば幸福度が上がる半面、やらされ感があると幸福度が下がります。そしてこの幸福度こそ、創造性や生産性を左右するということが、さまざまな研究でわかってきました。幸せな社員は不幸せな社員よりも創造性が3倍も高く、労働生産性は1.3倍高いというデータも出ています。
相談に来るような企業では、創造性や生産性の向上に「やらされ感」で取り組んでいるために、逆にそれらが著しく低下してしまっています。どんなに「頑張りが足りない」とプレッシャーをかけても、効果は出ないでしょう。
どうすればいいか。順番を逆にして、働く人の幸福度を高めることから始めるのです。徐々にチームの結束力とやりがいが増してくるでしょう。創造性や生産性も高まり、長時間労働もしなくてよくなる。幸せな社員は欠勤しない。皆が生き生きと働くようになる。まさにこれこそが「働き方改革」が目指す姿でしょう。幸福度ファーストで考えることが、働き方改革を成功させる一番の近道なのです。
(編集部・石臥薫子)
※AERA 2018年9月17日号より抜粋