経済専門家のぐっちーさんが「AERA」で連載する「ここだけの話」をお届けします。モルガン・スタンレーなどを経て、現在は投資会社でM&Aなどを手がけるぐっちーさんが、日々の経済ニュースを鋭く分析します。
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先日、友人の社長が10年来取引のあるメインバンクから3億円の融資を受けた時のことです。10年も取引実績があるのに、さんざん新たな書類を提出させられ、2週間待って融資OKとなり、契約当日を迎えました。支店からは40代の男性、30代前半の女性という中堅行員が2人、そして20代の若手行員の計3人がやってきて契約書類に記名、捺印ということになるわけです。
ハンコは行員らの目の前で押さねばならず、捺印の濃い薄いで2人の中堅行員が何度も確認しあい、揚げ句の果てにやり直しとかになって、またゼロから手続きが始まり、若手行員はじっとその様子を見ているだけで1時間が経過していく。じゃ、あんたが押してよ、と言ってもあくまでも社長が押印するのを見届けないといけないので、できないと言い張る。そして書類は持ち帰り、問題がなければ正式な稟議を待って翌週やっと融資実行……。日本の融資現場ではかなり普通な風景です。
一方、私が昨年米国でほぼ同額の融資を受けた際は、融資申し込みをしてから12時間後にはOKの通知を受け、翌日には振り込まれていました。その間に会った人間の数はゼロ。ハンコも押してませんし、サインもしていません。
この風景にはいろいろな教訓があります。
まず、日本の一流金融機関ではこういった書類の取り扱い業務を正確に、かつ素早くこなせる能力が尊ばれ、採用でも圧倒的に有利でした。しかし、米国の例では、実はそういう業務はすでにAIが人に取って代わっているのです。そんなことが早く正確にできても仕方ない時代は、すでに来ているのです。
2015年になりますが、大手銀行の支店長会議で講演会を頼まれたとき、「同じ金融業界の人間から言わせてもらうが、皆様の仕事は数年後にはすべてなくなります」と言ったときに場内から失笑が漏れたことをよく覚えています。