小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『歳を取るのも悪くない』(養老孟司氏との共著、中公新書ラクレ)、『幸せな結婚』(新潮社)
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小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『歳を取るのも悪くない』(養老孟司氏との共著、中公新書ラクレ)、『幸せな結婚』(新潮社)
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赤ちゃんも立派な社会の一員だ(撮影/写真部・東川哲也)
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赤ちゃんも立派な社会の一員だ(撮影/写真部・東川哲也)

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 荻上チキさんの『いじめを生む教室 子どもを守るために知っておきたいデータと知識』を読みました。いじめを生む環境に注目し、数多くのデータをもとに解決策を提示する一冊です。いじめが起きるのは「不機嫌な教室」。では何を改善すれば「ご機嫌な教室」にできるのか? 道徳の授業で本当に教えるべきこととは?

 いじめに関する報道では問題の深刻さばかりが強調されて暗い気持ちになりがちですが、本書で実態を示すデータを知ると、やるべきことが明確化して不安が軽減します。学校だけでなく、ハラスメントを生む職場にも通じるものがありそうです。

 この本で「アティテュードモデル」という言葉を知りました。ロールモデルは「あの人のようになりたい」という目標となる役割の人。アティテュードモデルは、こういうときにはああいう行為をするものなのだと学習する対象をいうのだそうです。例えば「政治はこういう風に語るもの」「友達とはこういう風にふざけるもの」などを、周囲の人やメディアの表現などから学習するのです。今ここでどういう態度をするのが“正解”かを他人の振る舞いから無意識に学んでしまうのはよくあることですね。

 先日、新幹線の中で、子連れの乗客にあからさまに敵対的な態度をする中年男性がいました。大きな舌打ちをしたり、ため息をついては「な、みんなもうるさいと思うよな? 俺に加勢してくれよ」という様子で周囲をチラチラ見ています。私は通路を挟んだ席に座っていたのですが、男性に対抗したくなりました。

 そこで子どもと目を合わせ、終始機嫌よくニコニコ。心の中で男性に向かって、ここはお前の縄張りじゃねえぞ、と唱えながら。親子連れに敵対的な態度は共感を呼ぶものではないと知ってほしかったし、子どもは社会の仲間だと示したかったから。幸い周囲は彼に同調することなく、男性は不満げに寝落ち。ささやかな態度表明は、私にできる「ご機嫌な車内づくり」のためのアクションでした。

AERA 2018年8月13-20日合併号