

元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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梅雨。ウメの季節。というわけで友人のウメ農家へ収穫の手伝いに。暇に任せて「なんか楽しそう」とホイホイ出かけたら、イヤもう終始圧倒されっぱなしでした。
だってね、ウメって超ハイテンションなんですよ! 梅雨になると自らの枝が折れるのも構わずたわわな実をつけまくる。熟したらボトボト実を落としまくる。その容赦ない勢いに追い越されぬよう、農家の奮闘が続くのです。
早朝、前日に落ちた大量の実を拾うところから始まり、次は縦横無尽の枝をかいくぐって大きくなった実をひたすらもぐ。で、その実が重いのだよ。肩に食い込む収穫カゴを、急斜面をズルズル滑りながら何度も運び出すのであります。それを終えたら実を一つ一つ選別し、気づけば夜。雨が降ろうが槍が降ろうが休みなし。ムカデや蚊の攻撃にも耐えねばならぬ。もうね、スーパーで売っているウメを見る目が変わります。手を合わせ、お供え物をしたくなる。
そして、これほど苦労しながらもなかなか報われぬ農家の現実も知りました。一番矛盾を感じたのは「見た目」だけで値段が大きく変わること。ウメは一雨ごとにプックラ大きくなるのですが、同時に「スス」と呼ばれる黒ずみが出てきます。味には何ら影響ないのですが、なぜか値段は3分の1に。選別作業でススのあるものを容赦なくはじき出していると、誠にウメに申し訳なく、そのうちにいつか自分もこうやってはじき出される日が来るのかと思えてきて、だんだん暗くなってくる。
せめてもの償いに、盛大にススっているウメをレスキューし自分用に梅干しを仕込むことにしました。ああウメちゃんを「救い出す」作業の楽しかったこと! こうなってくると欠点の多いウメほど可愛く、斑点のあるもの(ジュース用にしかならない)にも手を伸ばす。そこだけ包丁で除けばいいのです。ものを生かすと大変気分がよろしい。事情を説明して友人にも送ったら大変喜ばれました。
で、思ったんだが、消費者は本当に見た目にそれほどこだわっているのかね?
※AERA 7月9日号
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