運転免許証の自主返納数が3年連続で減っている。返納のピークは東京・池袋で高齢運転者による母子死亡事故が起こった2019年の60万1022人。22年は44万8476人と、3年前と比べて25.4%も減った。ところがこの間、高齢運転者による交通事故は増えるどころか、減り続けている。その大きな要因と思われるのが、衝突被害軽減ブレーキなどが搭載された車両「安全運転サポート車(通称・サポカー)」の普及だ。主要乗用車メーカー8社にサポカーについて取材するとともに、安全医工学が専門の山梨大学大学院総合研究部の伊藤安海教授に聞いた。
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伊藤教授は、そもそも「高齢運転者=危険」という一般に広まっているイメージは誤解だと言う。
「テレビなどのメディアが高齢運転者の事故を取り上げるとき、必ずといっていいほど出すのが年齢層別の死亡事故件数のグラフです。それを見ると、高齢運転者の死亡事故は他の年齢層のものよりもバーンと多くなっている」
なぜ、そうなっているかというと、高齢運転者は体の衝撃耐性が低いため、運転者自身が犠牲になるケースが多いからだ。
「私が科警研(科学警察研究所)に在籍していたころ取り扱った事故で、時速20キロで衝突した自損事故で亡くなった高齢者がいました。若い人であればほぼ絶対に亡くならないケースです。つまり、高齢者は非常に虚弱なので、かなり軽い事故でも亡くなってしまう」
20代より低い事故件数比率
実は高齢運転者の10万人当たりの交通事故件数は30歳未満の若年層よりも少ない。22年の原付き以上の運転者のデータでは20~24歳は597.2件、25~29歳は414.8件。これに対して65歳以上は348.6件で、30歳台前半(320.2件)と同程度である。
「高齢者の運転は危険だと思っている人が多いのですが、実際は、自分の能力を過信する若い運転者よりも高齢運転者のほうが危険を回避して安全に運転している場合が多いのです」
ただ、すべての高齢者が安全に運転しているわけではないと言う。