ダイハツ工業の大きな功績は、それまで「高い車にしか搭載されないだろう」と思われていた事故防止機能を普及価格で提供したことだ。
「軽自動車は、やはりお求めやすい価格でないとなかなか買ってもらえません。そのため、先進的な装備をある程度機能を絞ることで、プラス5万円でつけられるようにしました。すると、非常に多くのお客さんに買っていただけました。他社も一気に搭載するようになり、6、7年でほぼ全ての車に行き渡った、という感じです」(井上さん)
現在、スマアシの機能は20弱にも増え、新車購入時の搭載率はほぼ100%という。
マツダは基本設計から
一方、マツダは「人馬一体」を掲げ、意のままに操れる車づくりを目指してきた。それが結果的に高齢者の事故防止にもつながっているという。
「健康であるうちはいつまでも運転を楽しんでほしい、というのが弊社の一貫した考えです。そのために、運転しやすい基本設計に注力してまいりました」と、マツダコーポレートコミュニケーション本部の坂田昌大さんは言う。
高齢運転者に多い事故原因の一つが、アクセルとブレーキのペダルの踏み間違えだ。
「ドライバーが正しいドライビングポジションをとると、足を自然に伸ばした先にアクセルとブレーキのペダルがある、というのが車の基本であると同時に、ペダルの踏み間違いに直結してくる部分だと思っております。なので、ここに非常にこだわりを持っています」(坂田さん)
たかがペダルの位置と思うなかれ。これを実行しようとすると、前輪の位置にも影響する。
「なので、車両全体の企画段階からの話になってきます」(同)
さらに全てのマツダ車は「オルガン式」のアクセルペダルを採用している。ペダルの下端が支点となるように床面と接しており、足で踏むとペダルが後ろに倒れて動作する。
「ペダルの踏み間違えは、どちらがアクセルか、ブレーキか、わからなくなる一種のパニック状態のときに起こるわけですが、オルガン式ペダルはかかとを安定させた状態でアクセル操作ができます。なので、踏み間違え防止に有効に働くと考えております」(同)
もちろん、ダイハツ工業の車と同様に、マツダの車にもさまざまな事故防止機能が搭載されている。
ただ、先の伊藤教授は「どんなに便利な機能であっても使い慣れていないと、予期せぬ動作に戸惑ってしまう」と指摘する。
「なので、どのような動きをする機能なのか、安全な場所で確認しておくことが大切です。行政もそれを体験できるような機会を充実させてほしいと思います」
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)