『銀幕に愛をこめて ぼくはゴジラの同期生』は、今も現役の俳優・宝田明さんが、過酷な満州体験や伝説のゴジラ第1作、石原裕次郎や美空ひばりらスターとの交友など60年以上に及ぶ役者人生を語りつくした一冊だ。今回は宝田さんと構成を担当したのむみちさんに、同著に寄せる思いと発刊に至った背景を聞いた。
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インタビュー経験などまるでなかった映画ファンが、自前の情熱だけで映画スターの心を動かし、人生を語らせて300ページの本書を出版してしまった。驚くべき果敢さである。
「最初に声を掛けられた時、『大学生くらいかな』なんて思いました。ところがその後、私が名画座に行くと、必ずこの人もいるんです。そのうち、映画の世界では知る人ぞ知るのむみちさんであることがわかりました」
宝田明さんはそう話してくれた。著者が語り、ライターが書き起こして本にする場合、「構成」者という関わり方になる。のむみちさんがそれにあたる。彼女は、東京都内にある名画座の上映情報を掲載したフリーペーパー「名画座かんぺ」の発行人で、これは新文芸坐や神保町シアターなどの映画館に通う映画好きにはバイブルのような存在だ。
出会いについて、のむみちさんからも語ってもらおう。
「今ここで声を掛けなかったら一生後悔すると思い、後ろ姿を見て、走って追いかけました。そしてたくさんの方のご協力をいただいて、宝田さんの映画人生を一冊にまとめる仕事をご一緒できたんです」
幼少期を過ごした満州時代から始まり、東宝ニューフェイス、映画「ゴジラ」との運命の出会い、成瀬巳喜男や黒澤明ら巨匠たちとの仕事、ミュージカルに至るまで縦横無尽に語られている。苦労話ではなく、どんなことにもすかさずフィットできてしまうのが宝田さんの特長だ。
「満州時代、ロシア人や中国人などさまざまな国の人たちの中にいましたから、コスモポリタン的な振る舞いができるようになったのかもしれません」(宝田さん)
映画のことでは、例えばカメラについて宝田さんが非常に詳しいことに驚かされる。
「今どのカメラが使われているか。それはどういう意図によるものか。今自分は画面のどの位置にいるのか。全部頭に入っていました」