●Question4:クリミア併合した意味は?

――2014年にロシアは、ウクライナ南部のクリミア半島を併合した。国際ルールを無視した併合は国連総会で無効とされ、欧米から経済制裁を招き、主要国首脳会議(G8サミット)からも排除された。経済制裁を受け、国民はどう思っているのか。

 クリミア併合はロシア国民のほとんどが賛成している。それは、ロシアがずっと欧米に侮辱されてきたという感覚があるから。ナショナリズムを背景に併合は必要なことだったと考えているし、現にウクライナ政権も相当ひどかったのは間違いない。

 経済制裁を受け、ロシアの中産階級の人たちはバカンスでコート・ダジュールに行けなくなり、食べ物もおいしくない国産ものに限られるなどの影響は出ている。それでも国民が併合を支持するのは、ソ連崩壊から始まる「混乱の90年代」の記憶があるから。失業率は一気に悪化し、子どもたちは路上で車の窓ふきをして小銭を稼ぐようになった。こんな屈辱的な状況が約10年続いた中で「西側はロシアを見下して搾取していった」という思いが強い。

 またロシアには、経済制裁にも耐えうる市民レベルの助け合い社会があるという。
 ロシアでは、カール・ポランニーの『人間の経済』の概念の一部「再分配・互助」が機能している。子どもがいつまでも親からお小遣いをもらい、親族の中にお金持ちがいると必ずばらまく。だから92年に自由経済に移行しハイパーインフレで生活が混乱しても暴動までは起きなかった。今のロシア社会もそういう意識が支えている。

●Question5:プーチンなぜ支持される?

――プーチン氏は今年3月に大統領選で4選を果たし、長期政権を築いている。

 国民はプーチン氏を消極的に支持している。エリツィン政権だった90年代は混乱にまぎれて私腹を肥やした連中(オリガルヒ)がたくさんいたが、プーチン政権はそれを抑え込んだ。失業率が低下し、国民所得も上がり、一部で深刻な貧困層の問題が残っていたが、少なくともエリツィン時代とは全然違う。確かにクリミア併合後の経済制裁で反発も出てきたが、プーチン氏以外になれば再び混乱が起こると大部分の国民が思っている。

 プーチン政権の目標は「中産階級」を多く作り出すこと。国家を立て直すために教育や少子化対策などの政策を強力に進めている。ロシアでは離婚率が高く、シングルマザーへの社会的偏見もないため、旧ソ連時代から女性が働くことを前提にした支援も手厚い。これらも支持されている理由だろう。

(ライター・豊浦美紀)

AERA 7月2日号