

AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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■いま観るシネマ
「サスペンスというジャンルだからこそ掘り下げられることがある」
と語るのは、「ビューティフル・デイ」のリン・ラムジー監督。ホアキン・フェニックスを主人公に据え、第70回カンヌ国際映画祭で脚本賞と主演男優賞を受賞した。
米国の作家ジョナサン・エイムズの犯罪小説に触発され、映画化を決意した。
「小説には意外性がありました。主人公の中年男は中年の危機を感じていて自殺願望を持っている。しかも、母親と暮らしている。そのへんがすごく面白くて、自分なりにキャラクターを膨らませたいと思ったんです。それと、小説をあっという間に読んでしまったので、その勢いを映画で表現しつつ、見ている人にワクワクしてもらえるようにしたいと思いました」
舞台はニューヨーク。ジョー(ホアキン)は元軍人で、行方不明者の捜索を請け負うスペシャリスト。殺しも厭わず、人身売買や性犯罪に巻き込まれた少女たちを何人も救い出している。だが、彼は幼少期の父親からの虐待や軍人時代の凄惨な犯罪現場がトラウマとなり、死の誘惑に取りつかれている。ある日、ジョーは政治家から依頼された娘を救出するが彼女はまるで無反応。しかも、再び彼女を連れ去られてしまい……。
ラムジー監督は主人公を「脚本の1文字目を書く前からホアキン・フェニックスと決めていた」と話す。
「そんなことは監督史上初めて(笑)。昔から興味深い役者だと思っていましたが、彼の持つ脆さ、女性性など、彼だったらこのキャラクターを立体的に演じてくれると確信していました」
事実、肉体の屈強さとは裏腹に、生きていること自体が苦痛に見えるホアキンの繊細な演技は心に刺さる。彼は撮影の7週間前にニューヨーク入りし、監督と話し合いを重ねたと言う。