千葉県の軽費老人ホーム。収入により異なるが、利用料は月約6万5千円(食事代込み)から。常に人の目があり、孤独死の心配などはない(撮影/編集部・澤田晃宏)
千葉県の軽費老人ホーム。収入により異なるが、利用料は月約6万5千円(食事代込み)から。常に人の目があり、孤独死の心配などはない(撮影/編集部・澤田晃宏)
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養護老人ホーム入所理由(AERA 2018年6月4日号より)
養護老人ホーム入所理由(AERA 2018年6月4日号より)

 高齢者の住まいの最後のとりでともいえる養護老人ホームと軽費老人ホームだが、その様相は様変わりしつつある。

【アンケート結果】養護老人ホーム入所理由

関西のある養護老人ホーム(以下、養護)の施設長は、ここ数年の養護の変化をこう語った。

「人生100年時代を迎え、預貯金や年金だけでは生活に窮する人も増え、昔ながらの経済的困窮から養護に来る人が増える一方、新たなタイプの入所者もいます。親を支えるはずの40代、50代の息子、娘からの経済的虐待を受け、措置される人が明らかに増えています」  ここ10年の入所者のうち、約4割が家族からの虐待が理由だとこの施設長は話す。21世紀・老人福祉の向上をめざす施設連絡会の調査を見ても、虐待が目立つ。

「親の少ない年金を頼りに子どもが生きている。払わなければ手も出したり、家の外のエレベーターホールに追い出したりして、嫌がらせをする。一方で、もう自分は食べていけないからと、警察署の前に親を捨てていく息子もいました」(施設長)

 ただ、養護は措置施設であり、原則としては入所判定委員会を通さなければ入所できない。そのため、緊急時の受け皿となっているのが、養護と同じ福祉施設だが、個人の契約で申し込みができる「軽費老人ホーム」だ。家族の援助が困難で、独居生活に不安がある高齢者を対象としており、養護同様、高齢者の住のセーフティーネットと言える。

 関東のある軽費老人ホームの施設長は「ここ5年で、経済的虐待が理由で入所してくる人が爆発的に増えました」と話し、こんな現実を明かした。

「施設で受け入れても、親の年金を頼りに暮らしている子どもたちが追いかけてくる。そのため入所後は、新しい名前を名乗ってもらいます。電話がかかってきても取り次ぎません」

 過疎の市町村の受け皿にもなっている。同施設の約1割は僻地からの入所者だ。同施設に入居者を送る人口約3千人の村の福祉関係者が重い口を開いた。

「村には地域包括支援センターを中心に高齢者を見守れるだけの人的資源がないどころか、ケアマネジャーさえいない。ただ一つある特養は待機者でいっぱいで、訪問介護すら待機してもらっている状態だ。地元の人は『刑務所に送るつもりか』と最初は抵抗が大きいが、子どもたちの多くが村におらず、老人ばかりで面倒を見る人がいない」

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