■先祖から受け継がれたカラクリ人形

 無一郎は剣技を高めるために、戦闘用カラクリ人形「縁壱零式(よりいちぜろしき)」での訓練を望んでいた。無一郎は小鉄に対して、「柱」として、カラクリの鍵を渡すように命じるが、小鉄はそれをかたくなに拒み続ける。戦国時代に作られた人形はすでに老朽化しており、次の使用で確実に壊れると予想されていたからだ。

「凄い技術なので 今の俺たちでも追いつかないんです 壊れてしまったら もう直せない…」(小鉄/12巻・第103話「縁壱零式」)

 小鉄のセリフから「縁壱零式」がいかに貴重な技術で作られたものなのかが分かる。本来であれば、カラクリ人形の管理者は小鉄の父親であった。しかし、小鉄の父はすで亡くなっており、もしも壊れた場合、小鉄にはそれを直す術もないため、「縁壱零式」は永遠に失われてしまう。

■小鉄が柱の命令に反抗した理由

 小鉄がこれを守ろうとしたのは、「縁壱零式」を壊したくないという理由だけではなかった。

「親父が急に死んじゃって 兄弟もいない 俺がちゃんとやらなきゃいけないのに 刀にも 絡繰(からくり)にも 才能ないから…」(小鉄/12巻・第103話「縁壱零式」)

 先祖から継承されるはずのカラクリの技が、自分の代で断絶してしまうのではないかと小鉄は恐れていた。

「自分で自分が駄目な奴だってわかるもん 俺の代で… 俺のせいで全部終わりだよ」(小鉄/12巻・第103話「縁壱零式」)

■毒舌・時透無一郎の正論

「縁壱零式」が壊れるかもしれないという現実を、小鉄はなかなか受け入れられなかった。無一郎は小鉄に対して「壊れるから何? また作ったら?」と冷たく言い放つ。しかし、言い方自体は厳しいものの、無一郎の発言内容は間違っていない。

 鬼との戦闘訓練に有益なカラクリ人形があるのであれば、「柱」としてそれを使用したいと思うのは当たり前のことであり、小鉄は刀鍛冶として、それに同意しなくてはならないはずだ。そこで小鉄が自分の技術不足、経験不足を嘆くことは、一般的には「甘え」でしかない。

 それでも、小鉄は「縁壱零式」が失われることがつらかった。このカラクリ人形は小鉄にとって、亡き父から受け継いだ大切な思い出の品でもあるからだ。

 小鉄と無一郎が問答しているその瞬間にも、鬼殺隊の隊士たちと一般の市民たちが、鬼の襲撃によって命を落としているかもしれないということを、幼い小鉄はこの段階ではまだ実感しきれていない。

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「絶対俺が直すから!!」