「怖いし、不安よね」

「声をかけてくれる人が、せめて見える位置にいてくれたらよかったのに」

 ディスカッション後、司会者が丁寧に解説していく。

「あるおばあちゃんが、デイサービスの車から降りる際、『キャーッ』と悲鳴をあげて怖がって、その後すごく怒っていたんです。私たちは『降りるだけなのにどうして』と思いがちですよね。でも、もしも世界がさっきのように見えていたら、おばあちゃんの反応は無理のないことかもしれません。皆さんも、いろいろ感じたことがあるのではないですか」

 ──横からではなく、前から声をかけてくれたら。

 ──「大丈夫ですよ」じゃなくて、「どう見えていますか」と状況を尋ねてくれたら、安心できたかもしれない。
 体験した身には、その言葉が我がこととして染み入ってくる。

 厚生労働省の2015年1月の発表によると、日本の認知症患者数は12年時点で約462万人、65歳以上の高齢者の約7人に1人と推計される。25年には700万人を超えるという研究もある。誰もが認知症と向き合うかもしれない現実があり、認知症予防というテーマは、健康情報誌のキラーコンテンツのひとつになっている。

 それなのに、私たちは、認知症のある人が見ているかもしれないもの、感じているかもしれないことに対して、あまりに無自覚だったのだろうか。(編集部・澤志保)

AERA 6月4日号より抜粋

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